戯言パロ 黄瀬と笠松


黄瀬「危険信号」
笠松「武器職人」

「テメェ、黄瀬、何をした」

武器では決して傷付かない。それが罪口。プロのプレイヤーが使う事は無いが重火器の類いも、刀も鋏も釘バットも何もかも。それが武器と云うジャンルに存在する限り、例えワイヤーであっても、罪口の、笠松の身体を傷付ける事は有り得ない。しかし、それが今、なぜか、覆されようとしていた。「危険信号」、極限糸、黄瀬涼太の糸によって。部室中に張り巡らされた糸によって、身動き一つとれない。ぎぎぎ、と絞まる糸。此は、いったい全体、どういうことだ。

「不思議何でしょう、センパイ。訳がわかんないって顔してる。ねぇ、センパイ、此、何だと思うッスか?」

そう言って、黄瀬が糸を操る右手とは反対の左手で掲げて見せたのは白い、糸巻きだった。家庭科のお裁縫セットに入っているような、一般的なものだった。一般的な、つまり武器となり得ない、唯の糸だった。

「そういう、事かよ」
「そういう、事ッス」

笠松は理解する。武器、に分類することのできないそれ。殺傷を目的とせず、殺害を意図とせず、純粋にソーイングに向けて生産された糸は、だから其処に、武器としての要素が欠片もない。つまり、十二分に笠松を傷付け、殺し得る。武器に愛されるが故に罪口。武器以外には愛されないが故の罪口。結局は、そういう事。そういう呪い。

「なあんて、ね。……冗談ッスよ、センパイ。ほんの冗談ッス」

黄瀬は右手を払う。とたんに可視となった白糸がたゆんだ。だらり、とまとわりつくそれらを取り除くと、黄瀬へと視線を向けた。

「殺すんじゃ、無かったのか?」
「別に、そんなつもりは端から無かったッスよ。頼まれたんじゃなきゃあ、俺がセンパイを殺す筈ないじゃないッスか」

老若男女容赦なし、の零崎じゃああるまいし。黄瀬は宣う。というかお前は、依頼なら俺を殺すのか。流石だな危険信号。中身がないにも程がある。

「唯の牽制ッスよ、いや、お仕置き?」

危険信号は笑う。黄色く点滅するそれは、此処から先は侵入禁止の標。止まれ、止まれ。赤になる前に。

「あんまり色んなトコに首突っ込んじゃ駄目ッスよ、センパイ。世の中、俺みたいに善良なプレーヤーばかりじゃないんスから」




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