戯言パロ 火神と黒子
火神:零崎
黒子:「自殺志願」
火神と黒子
ああ、うん、どうしよう。
何とも言えない気持ちで、火神大我は眼下に転がるかつてクラスメイトだった肉塊を見下ろしていた。三流スプラッタの様に、体育館の外壁に血液を撒き散らして元人間、確か教室の隅の方の席に座っていた彼女は四肢をバラバラにもがれて息絶えていた。此処が人目につかない、所謂体育館裏で良かったと思う。始業のチャイムが鳴る遥か前、午前7時半に告白する数奇者も、呼び出しをする好き者も、居ないだろうから、正に誰も来ない場所だった。何となく、体育館の裏に朝練の途中に来てみれば。偶々、彼女がそこにいて。つい、殺してしまった。鍛え上げた両腕で彼女を地に抑え付けて、首を鶏みたいに捻って。左、右、と腕を折って。それから、は、よく覚えていない。我にかえれば、今の状況である。
「なんだよ、これ」
人を殺してしまった。画面の中のフェイクでなく、現実に。けれど、何故か、自分の中で殺人という反人道的な行いが、とても理にかなっている様な気がした。
「朝っぱらから血の匂いがすると思えば、君でしたか火神君」
突然の声に振り反れば、そこには部活の相棒たる彼がいた。
「黒子、」
「ああ、黙ってください火神君。騒がなくても大丈夫です。彼女が死んだのは確かに火神君が、その強肩でもって引き裂いたからですが。抑が殺人衝動を抱えた零崎に近付いたのが悪なのです」
体育館の壁に付着した血液を人差し指でなぞった黒子は此方をくるりと振り反る。
「火神君。君は練習に戻っていてください、此れは僕が片付けておきましょう」
さあ早く、カントクに怒られますよ。有無を謂わせぬ口調で紡ぐ黒子に、彼にならば全てを任せても良い様な気がして、素直にその場をあとにした。
*
「さて、先ずは火神君。ようこそ、零崎へ、と言わせてくださいね」
「さて、じゃねえよ。てか何で一限目からさぼってんだよ、俺ら」
何事もなかったかの様に朝練を終えた火神は、ふわふわとした気持ちを抱えながらも教室に向かおうとした。けれど黒子がそれを捕まえたのだ。そうしてそのまま、校門をぬけ、火神の家へと至る。
「おや、火神君。あんなことを、したのに授業が大事と」
ズズ、と火神に作らせた珈琲を黒子は啜る。その言葉に、今更ながら朝の惨劇が思い出される。あの時、黒子が余りにも落ち着いていて、そうして今も落ち着いているから、何となく夢の様な心地がしていた。或いは、日常の様な、取り立てる事もない、そんな心持ちでいた。
「ところで火神君。君はよく、人を殺すんですか」
「よく、って…人を殺すのなんて初めてに決まってんだろ、」
「そうですか」
ふむ、と思案する様に黒子の瞼が落とされた。ここは自分の家であるというのに、何故か落ち着かない様な気持ちにさせられた。それは人を殺めてしまったからだろうか。いいや、違う。火神は頭を振る。そうじゃない、そんな事は問題じゃない。問題なのはこの異常な事態だ。人殺しの同級生の家に上がり込み、あまつさえ珈琲を催促する黒子の態度。黒子がぱちり、と瞼をあけた。
「じゃあ、僕は家族誕生の、珍しい瞬間に立ち会って終ったんですね、喜ばしいことです。火神君、改めて、二度、言わせて貰いますね、ようこそ零崎へ。今日から君は<殺し名>序列第三位零崎一賊の一員です」
誇らし気に黒子は言い切る。無表情と常日頃揶揄される顔が、心なしか輝いている様に見えた。
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