赤司と青峰

止めて終えばいいのに、大輝も馬鹿だ。どんだけお前が必死になって待ってても、誰もお前追い付くことなんて出来やしないんだ。

「疲れただろう、大輝」

あんなに重たいものばかり背負い込まされて。お前の背中は万人を惹き付けてやまない、 焦がれさしてやまない、正に憧れそのものだ。そう言って笑ってやれば、知っているよ、と返された。あの傲慢な口調で。しかし、其処にはなんの驕りもない。彼にとっても、またどんな凡百にとっても、それは紛い様もない事実なのだから。

「良いんだよ、赤司。俺はいつまでだって待つさ」

俺を殺してくれる人間を。大輝はそう言った。けれど、後ろに続く彼等に笑いかけることだって、もうお前は出来ないんだ。彼等のひたすら真直ぐにお前を見詰める、その視線。そこに込められた畏怖と憧憬。彼等は一線を引き、お前はその遥か先、到達出来ない程の高みに君臨している王様だと信じているんだから。判っているんだろう。だからお前は他者に何も求めない。お前は求められる側の人間にされて仕舞ったのだから。






赤青
「勝利こそが、至上だよ大輝。この世に数多幾多の可能性があろうと、勝利しなければ始まらない。凡百の言葉に「意味のある敗北」とあるが、それは結局「最終的に勝利する為に意味のある敗北」ということに過ぎないのさ。お前も、そう思うだろう」

男の炎の様に鮮烈な紅が、緩に揺れている。さぁ、と薄く笑みを浮かべて首を傾げて見せれば男はその金と赤の目を見開いた。

「そんな顔も出来たんだな」

睨みつけるような、鋭利な視線を受けたところで、俺は揺らぎはしない。どころか、いっそう笑みを深くした。男の綺麗な顔が、歪む。男は、思い通りに為らない事を酷く嫌うから。

「さあな。俺は、勝利何てどうでも良いんだよ。楽しくさえあればそれが至上だ。ただ、勝利を得た方がより楽しい、というだけの話」
「勝利はあくまで一パーツに過ぎないと、快楽を得た後の付随品か」
「流石に其処まで蔑ろにする気はない、が、まあ、そんなところだ。俺は過程を楽しみたい、勝利はあくまでその目安」

男は組んでいた足を入れ換えた。中学の頃の真白に青のブレザーとは異なるそれは、月日が経過してしまった事を示している。金と赤の眸が、一瞬伏せられて、再度俺を見つめ直した。もはや、その面に歪みはない。綺麗に美しく、整ったままだ。

「やはり、な。世間はキセキ、取り分け俺とお前を比べたがるが、天と地程も隔っているな。どちらが天か地かという事は置いておくが、同じ「無敗」でもお前にとっては結果で、俺にとっては目標だ」
「そうかよ」

落ち着きを取り戻した男はもう格好を崩す事はないだろう。それが詰まらなく思えておざなりに返事をした。男は好機と捉えたか、形勢の逆転と捉えたか、兎に角金と赤の眸をか、と見開いた。

「だからね、大輝。僕らは平行線なんだ。近く近く、見えても決して交わらず、その距離は変わらず、ただ前へとひたすらに進むだけの」

流暢に告げられる男の言葉に然り、と思うところもあったけれど、男は返答など求めてやしないだろうから、押し黙り、男の声を聞いていた。





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