青峰と桜井

ボールが彼の手から離れる瞬間にそれがわかった。

(あ、はいる)

まるでお手本の様に、完璧な姿勢で、角度で、弧で、ボールはリングを潜った。リングの縁に触れる事もなく、微かにネットに擦れる音だけをさせてボールは床へて落ちる。

「すごい、」

3Pラインの向こうからボールを投げた彼、青峰は何の感慨も無さそうにゲームに戻っていったが、桜井は未だに余韻に浸っていた。青峰大輝と云えば「型にはまらないバスケ」の代名詞だ。通常ならあり得ない方法で難なくシュートを決めてしまう。確立した自分のスタイルを意識的に変える事は難しい。だから、青峰もまた「型にはまらないバスケ」しかできないのだと桜井は考えてしまっていた。しかし先程のシュートは、型にはまらないどころか、型そのものであった。

(て言うか、はじめて見た。青峰さんのそういうシュート)

青峰は時々試合であっても、「型にはまらないバスケ」を封じてプレイをするときがある。相手が余りにも弱すぎる、と彼が手を抜いた結果であったが。それでも、どこかに彼らしい、彼特有のスタイルは残ってたのだ。しかし先程の、コートの中で続いているプレイからはそれが完全に失われていた。今現在体育館の中で行われているのは、桐皇の二軍同士の試合だった。何を思ったか青峰はそれに勝手に参加してしまっていた。主将である若松が怒り、やめさせようとしたが、監督がそれをせいした。そうして青峰に向かって言ったのだ。

「普通のプレイをするのなら構いませんよ」

と。青峰は向けられた監督の視線を受け取り、何やら了承した風ににやり、と笑った。

「青峰さんって、あんなプレイも出来たんですね。それに3Pも」

ゲームは結局青峰の入っていた方が勝利をおさめた。スポドリの入ったボトルを投げ渡すと、サンキュ、と彼は受け取り口にもっていった。ごくりごくり、と燕下する喉。青峰のそれはひどく様になっている。

「ああ、まあな。ってもお前みてーにクイックリリース出来る訳でもねーし、緑間みたいに何処からでも百発百中、って訳でもねーよ」

それは確かにそうだった。あの後ゲームの中で青峰は、お手本の様に、レイアップだのドロップショットだの、様々決めてみせたが、3Pを打ったのはラインの縁あたりで、無理のない範囲での事だった。それでも放られたボールは全てリングを潜ったが。普通試合中の3Pというのは、恐ろしくはいる確立が低い。シューター以外の放るボールは殆ど入らないといってもいいのかもしれない。やはり、彼は天才ということか。

「あれも二軍相手だから出来た事だしな。一軍ならあんなプレイは無理だ、堅苦しくって仕様がねーよ」

あの型通りのプレイは彼にとっては窮屈で仕方無いらしい。一軍、自分達には出来ないという事は素直に自惚れてもいいのだろうか。

「それにしても、何で監督は青峰さんにそんなプレイを命じたんでしょうか?」
「俺のいつものスタイルで相手しても意味ねーからだろ。別に俺、彼奴らと公式試合する訳じゃねーし。そんなら普通のプレイで良いって思ったんじゃね。俺、それでも二軍には負けねーし」

するり、と当然の事の様に青峰は宣った。彼は、認めていたのだ。自分が桐皇の一員であると。勿論彼は端からその気であったのだろうが、桜井は無意識の内に青峰は桐皇なんて何とも思ってはいないんだろうと決め付けていため、それが砕かれた思いだった。

(ああ、なんて)

嬉しいことか。あの遥かな高みに座る暴君は、桐皇こそを己の属する軍と見なしてくれていた。中学時代から焦がれに焦がれた光が、他の誰でもない自分達の目の前で輝いている。彼が自分達を幕下と見なすのなら、僕たちは喜んで礎となる。彼の為の兵となる。


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