青峰四つ

青峰は暴君だ。誰よりも強く誰よりも輝くが故に、傲慢で不遜。誰もが彼の後ろを歩き、誰もが彼に道を譲る。そうして彼に憧憬の眼差しを送るのだ。しかし、その最も高い玉座にて青峰は待っている。何れそこに至る挑戦者を待っている。その首に刃を突きつけられ、容赦なくその玉座から引きずり下ろされるのを今か今かと焦がれている。その喉笛に食らい付き、その四肢を押さえ付け、敗北という冷えた汚濁の中に突き落とす、姿の見えない誰かを青峰は、怠惰に座し乍待っていた。練習という進化を止め、遥か下を眺めて、青峰はただ玉座にいる。

「さあ、はやく」

俺を惨めな底におとして見せろ。敗北という辛酸を舐めさせろ。声なき声で、暴君は獣の様に吠えた。



青峰
最強と云う冠を背負う為に生まれて来た。嘗て遠かった空はいつの間にか息絶えて、嘗て澄んでいた海はいつの間にか色も分からぬ程黒く染まった。無人の世界はひどく歪んでいる。

「あんな、化け物誰も敵わねぇよ」

無数の瞳が俺をステージに縫い止める。まるで剣闘士の気分だ。集中的に浴びせられたライトが眩しくて何も見えない。ステージには、もはや脇役しかいない。誰か、誰か、俺と台詞を交わせ、対等に話してみせろ。


(世界よ、答を返してくれ)



青峰
いつ聞いても心臓を刺す様なブザー。試合が終わった。当然の如くダブルスコアでの勝利。集合、と若松さんが叫び、のろのろと緩慢な歩みでそれに従った。整列し向き合う相手の顔は、絶望。そうだ、これが常だった。試合の最中から、酷いときは試合の始まる前から、いつだって対峙する相手は絶望の色をしている。

(ああ、やっぱり)

去年のWCでテツに負けて、久方ぶりに味わった感覚は酷く苦くて。あの高い場所から、漸く引き摺り降ろされたと思っていたのに。結局は、何も変わらなかった。相手チームは相変わらず絶望しかせず、期待をかけた誠凛も昨年の勝利の為だけに全てを捨て、無冠の一人もいなくなった誠凛は、ただ最初の試合の時の様に、圧倒的に負けただけだった。俺一人の気持ちが変わっても、周りが同じじゃあ意味がない。俺が求めたのはただ一度の敗北じゃない。ギリギリのクロスゲーム。勝つか負けるかわからない、あの血湧き肉踊る感覚。昔の俺に戻った、とさつきもテツも喜んだけど。これは、余りに残酷じゃあ無いだろうか。引き戻してくれた事には感謝する。けれど、俺に一体全体どうしろというのだろうか。真面目に練習に参加し、最初から試合にでてみれば、今まで以上に簡単に勝利を得てしまった。これじゃあ、中学の時と同じではないか。それよりも、酷いじゃあないか。

(酷く、無責任だな)

結局お前は、中学の俺が見たかっただけだ。お前の憧れていた俺を取り戻したかっただけだ。その後を考えもしないで。対等に戦える相手はキセキくらいで、それ以外は皆諦めをもって試合に臨んできて、そんな状況が辛いから、悲しいから、練習をやめたのに。戻すだけ戻して、放り出すのなら、最初からなにもしないで欲しかった。




青峰(黒子+桃井)
少し、沈んだところで俺はその影を突き放した。すると表情は真っ黒で見えないはずなのに、何故か影は悲しんでいるようだった。何かに耐える様な、つらそうな顔をしてその腕を此方に伸ばそうか、どうか、迷っていた。俺は何となく、影は一緒に沈むべきじゃあないと思った。だから俺は影から顔を背けて、さらに底へと沈んでいく。沈んでいくのは簡単だった。ただ身体から力を抜くだけで、自然に下へと落ちてゆく。視界の外で上をちらり、と確認しても、もう影の姿は無かった。その事に安堵を覚えつつも、寂しさが心臓をつつく。

(ああ、さようならだ)

次に俺は花を掌から離した。バスケをするためのこの固い手には不似合いな花が、この掌にある。俺は此処に至るまで、花が此処にあるのか疑問に思う事もなかった。いつから花を持っていたのかも、覚えていなかった。気がつけば、花はいつも当たり前の様にこの手の内にあった。掌から離れた薄紅は、まるで心残りでもあるかの様に未だ俺のそばでたゆとうている。花は影の様に一緒に沈んでゆくことを迷ってはいなかった。だから、俺は、この掌に花をもう一度握り直した。唇にのせる事は出来なかったが、ありがとうと胸中に溢した。

ついに水底に到達した時、視界は既に真っ暗だった。何も見えず、何も聞こえず、誰もいない空間は酷く寒く、死んでしまいそうだった。



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