恋愛ドラマを観た後の余韻とは凄い。


「変わらない愛を頂戴…」

「……、は?」


昨日観たドラマの印象深い台詞を呟いてみると、隣の席の広山くんが反応した。


「ドラマだよドラマ。広山くん見てないの?“貴方と私のラブロマンス”!」

「…何そのドラマ」


全く興味なさそうな広山くんに私は語り続ける。


「昨日ついに二人は結ばれたんだよ!いいよなー私もあんな大恋愛してみたいなー」

「現実見ろよ」

「冷たっ広山くん冷たっ!」


私の小さな願望をたった一言で切り捨てるとは何て奴だ。

優しさに欠けるこの男は多分、あんな大恋愛は絶対に出来ないと思う。


「だってドラマみたいな話なんて、現実にあるわけないじゃん」

「えーでも分からないよ?もしかしたら将来とっても素敵な人が現れて駆け落ちなんかしちゃったりするかもよ!」

「絶対無理」


……、うん、だめだもうこの人は。


「…広山くんって結婚出来なさそう」

「何それ、どういう意味」

「そのまんまの意味ですよ。余り人を必要としていないっていうか、自分一人で全部やるって感じがするもん」


名付けるならば、“誰にでも冷たいサラリーマン”。


「…まあ、あながち間違ってはいないけど」

「でしょー!よしっ広山くん一生独身決定だね!」

「何で」

「その時はぜひ独身生活を援助させて頂きます」

「要らない。絶対要らない」

「じゃあ私家政婦やってあげる!」

「断る」

「えー」


あ、でも何でも一人でこなしてしまう広山くんに家政婦は必要ないか。

じゃぁ広山くんに必要なのはやっぱり…


「では私が嫁に行ってやろう」

「は?」

「だってこのままじゃ広山くん、孤独死しそうなんだもん」

「大きなお世話」

「いいから、黙って貰わんかい」

「どこのヤクザだよ。絶対に嫌だ」


ドラマのような恋愛は中々落ちてない。

それを探すのも恋愛に至るのかもしれないけど。


私の場合、まずは広山くんを落とすので精一杯だ。




「中々いないよ〜こんな嫁になると言ってくれるおなごは〜」


「誘導するな。ていうか何さっきから…、もしかしてお前俺のこと好きなの」


「………」



たちまち顔を赤くしてしまった私を見て、広山くんは目を見開いた。




「…え、まじ」

「うっ、嘘!嘘です!」

「顔真っ赤だし説得力ない」

「う゛」



だって…図星を突かれたら必死になるしかないじゃん。


私の気持ちを理解した広山くんは机に片方の肘をつき、ニヤリと笑った。



「ふうん」

「な、何ですか」

「別に?」


気持ちがバレて気付いたことが一つ。

広山くんは冷たいだけでなく、完全にSだ。



「いいよ別に、付き合ってあげても」



…いきなり上から目線になりましたね。



「け、結構です!」

「へえ。さっきまで嫁とか言ってたのにね」

「そ、それは…っ」

「まぁいいけど」

「……」














(奪わなければ、意味がない)














ドラマのような恋愛をするには、最終的にお互い愛し合わなければならない。

……果たしてそれが彼と出来るのだろうか。


「…だって広山くん、別に私のこと好きなわけじゃないでしょ?」


なのに付き合うのはおかしい。

私が望んでいるのは、そういう恋愛ではない。


「だから広山くんには私を好きになって貰います!」

「へえ。頑張って」

「頑張ります」




願わくば、彼が孤独な人生を送りませんように。







◎蝶々くらべ提出 お題:変わらない愛を頂戴