何だか、嫌な予感がしていた。

夏休みなんだから、少しくらい家に戻ってきなさい。
そう両親に言われたのは3日ほど前だったか。俺はいま1人暮らしをしている。だからといって、実家がそう離れているわけでもないのだが、土方さんと付き合ってからのこの一年半ほど電話すらしていなかったような気がする。土方さんにもいいんじゃないのか行って来いよと言われたので久しぶりに実家に帰ることにした。の、だが。



土方さんと連絡がとれない。
一昨日までは普通に連絡はとれていた。のに。

俺たちはいつもチャットのような携帯アプリで連絡を取り合っていた。読んだら、既読と表示される仕組みなので他人が携帯を操作している場合以外は本人がその内容を確認したということがすぐにわかる。
連絡がとれなくなったのは昨日の昼間からだ。土方さんはその日は友達と遊びに行くからあまり連絡はとれなくなると言っていたから返信がこないことをあまり気にしていなかったのだが、帰宅したら必ずといっていいくらいチャットを飛ばしてきたのにその日は俺が寝るまでずっと返信はこなかった。
不安はよぎるものの、疲れたのだろうとあまり気にしないようにしていた。既読、と表示はされていたのだが。思えばやはりもうこの時点で未来が決まっていたのだと思う。



そして今日の朝、起きてみてもチャットの通知はなかった。
しかし、今日は土方さんに三日ぶりに会える。そう思うと嬉しくて堪らなかったがその反面、胸がざわざわと嫌な感覚に侵されていた。
両親の言葉がろくに耳に入ってこない。生返事ばかりで叱られてしまうが俺にはそんなこと気にしていられる余裕などなかった。
何かがおかしい。
いつもとちがう。
ここまで連絡がとれないのは、初めてだった。一刻も早く会いたい。ただそれだけだった。

家に帰ったときには土方さんはバイトにいってしまっていた。
バイト先はコンビニで俺の家からとても近いため、買い物がてらにいつも迎えにいっていた。


21時45分。土方さんが上がるのは22時。テレビをみていたのだが、内容が頭に入ってこなくて、そわそわと落ち着かなかった。たえきれず、いつもの時間よりも10分も早く家から出た。外に出ると普段は蒸し暑い夏の夜がきょうは涼しく感じた。空を見上げるとちらほらと星が出ていた。そのまま深呼吸をして、よし、とつぶやいて徒歩五分の土方さんの働いているコンビニへと向かった。
ドキドキが止まらない。ドキドキなんて、かわいいもんじゃない。心臓がどくどくと波打つ。からだが震えている気がした。
何て最初に話そう。何を話そう。
毎日会っているはずなのにこんなに緊張するのは何故なのか。そんなこと考えてるとあっという間に土方さんのバイト先についてしまった。
今日は買い物もないから入る必要はない。何より、土方さんに会うのが怖くなっていた。カタカタと肩が震えていた。

「なんだ、これ…」

わけがわからなかった。俺は何に怯えてるんだろう。なにがこわいんだ、なにが。おれは。

ジャリと足音が聞こえた。
振り返るとそこには、いとしい恋人がいた。けれど。おれは声がでなかった。

なぜならそこに立っていた土方さんの表情は別人のようだったから。


「あ…ひ、じかた、さん」
「…、」
「おつかれ、さまでさァ。あの、」
「…」

うまく喋れない。土方さんは何も言わずに言葉を遮るように俺の手を引き歩き出した。あたたかい土方さんの体温に少し緊張がほぐれた。

「3日ぶりですねィ土方さん。おれがいなくてさみしかったでしょう?」
「そうだな」
「おれはべつにさみしくなかったけど」

ぎこちない。
土方さんの返答に違和感を感じながらもそのことについておれは何も言うことができなかった。
無言が続く中、あと少しで俺の家に着くというところで土方さんが口を開いた。

「総悟」

これは、現実なのか。
言葉を失うとはこのことなのだろう。

「別れよう」







涙なんか出なかった。
ただこの現実を受け入れるのに精一杯だったから。




出来れば出逢いたくなかった
(だって、別れは必ず訪れるでしょう)








121110
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