「生徒会長」
 「…」
 「おい、」
 「…」
 「天パ野郎」
 「…」
 「聞いてんのかよ?」

 俺たち以外誰もいない生徒会室。同じ生
 徒会の桂や坂本たちは随分と前に下校し
 てしまった。オレンジ色の夕陽が差し込
 む教室に高杉の苛立ったような声が静か
 に響く。俺は次の会議に使うプリントを
 束ねてホチキスでとめるという作業を淡
 々と繰り返していた。あいつら、俺に仕
 事押し付けて自分たちはさっさと帰りや
 がった。なんて薄情なやつらだ。しかし
 、俺は腐っても生徒会長なわけで仕方な
 いが一人で押し付けられた仕事をこなさ
 なければならない。そんな俺の目前で腕
 を組んで偉そうに見下ろしてきている恋
 人は何一つとして手伝うつもりはないら
 しく俺が使っている生徒会長の机の横に
 座り込んで寄りかかり携帯をいじったり
 ゲームをしたりしていた。ちゃんとした
 椅子があるのだから其方に座るように言
 ったのだが、ここがいいと言ってきかな
 かったから諦めた。お前の近くにいてェ
 しと呟くように言った高杉の言葉が静か
 なせいで思わず耳に届いてしまい、空耳
 かと驚いて彼をみたが赤くなった耳とう
 なじが空耳ではないということを表して
 いた。きっと高杉は独り言のつもりなん
 だろうが、どうも可愛すぎて困る。無意
 識とは凶器だ。わざわざ、俺が終わるの
 を待ってくれている高杉のために早く終
 わらせようと急ぐ。何たって今日は彼に
 とってはもちろん俺にとってもトクベツ
 な日なのだから。しかし、そんな俺の気
 持ちを知ってか知らずか、高杉は呼びか
 けてくる。もう付き合い始めて、3ヶ月
 近くは経つというのに俺のことを名前で
 呼んでくれない。だから、対抗して俺も
 名前で呼んでやらない。なんて、自分で
 も餓鬼臭いと思う。

 「俺は生徒会長って名前でも天パ野郎だ
 なんて名前でもありませーん」
 「ちっ…」

 あ、舌打ちされた。名前を呼んでくれる
 まで顔上げないもんね。きっといま高杉
 はとてつもなく不機嫌に顔をしかめてい
 るだろう。
 長い沈黙。響くのは紙が擦れる音とがし
 ゃんというホチキスの音のみ。しかし、
 それを破ったのは高杉だった。

 「…ぎんとき、」
 「っ…!?」

 まさかの平仮名発音にばっと顔が上がる
 。髪に隠れている高杉の顔は真っ赤に染
 まっていた。何?何なのこの子。滅茶苦
 茶可愛いんだけど。

 「なぁ、ぎんとき」
 「ん?なーに、晋ちゃん」
 「晋ちゃんって言うな。…今日、何の日
 か知ってるか?」

 ぱちぱちと瞬きを繰り返す。言いずらそ
 うに口にしたのはそんなこと。俺が恋人
 の誕生日を忘れるとでも思っているのだ
 ろうか。そうだとしたら、軽くショック
 だ。何も言わない俺も悪いが、驚かせよ
 うとしてまだおめでとうも言っていない
 。今日は、明日は学校も休みなことだし
 どこかに外食に行くつもりだった。プレ
 ゼントだって用意してるしレストランの
 予約もしている。きっと高杉はああいう
 ところには言ったことないだろうから一
 度連れて行ってやりたかったのだ。しか
 し、そわそわと緊張してる感丸出しの彼
 をみているとどうも自分の中に眠るドS
 心というやつが顔を出してしまい、いじ
 めたくなる。ニヤリと笑うと白々しく惚
 けたふりをしてやった。

 「え?今日?何の日なんだろ」
 「…」
 「うーん、」
 「…、」
 「8月10日…、あ、わかった!」
 「!」
 「ハトの日じゃね?」
 「帰る」

 机の横に置いておいた鞄を乱暴に取ると
 じゃあなと言って生徒会室から出ていこ
 うとする高杉を慌てて止める。

 「ま、待て待て待て待てェェ!悪い!俺
 が悪かったから帰んないでェェェ!」

 椅子から立ち上がり、ドアの前で立ち止
 まった高杉を後ろから抱きしめた。悪い
 ことはしたと思ってはいるが、拗ねた高
 杉をみれて嬉しいだなんて高杉に知られ
 たら一瞬で別れを切り出されるだろう。
 喋らない高杉の耳元に唇を息が当たるほ
 ど近付けた。

 「離せ」
 「嘘だって。俺が晋ちゃんの誕生日忘れ
 るはずないじゃん」
 「っ、……」

 高杉が耳が弱いのは知っている。俺の息
 が当たってぴくっと揺れる愛しい身体を
 より強く抱き締めた。

 「ごめん、」
 「死ね」
 「好きだよ」
 「うるせェ」
 「今日、飯食いに行こっか」
 「…」
 「祝いの言葉はそのときまでとっておく
 から」
 「、」
 「何食べたい?」
 「……ハンバーグ」
 「じゃあ、ハンバーグ食べにいくか」
 「…ん」

 まるで子供のような要望をしてきた彼に
 再び食事に誘えば小さい頭がこくりと上
 下した。俺の腕の学ランの裾を掴んで、
 ちらっと俺の表情を窺うためにか振り向
 いてきた高杉はもちろん身長的に俺を見
 上げる形になっていて。高杉は多分、少
 しもわかってない。これがどんだけ破壊
 力があるかが。しかし、口から出るのは
 。

 「とっとアレ終わらせろよ」
 「手伝って欲し」
 「嫌だ」

 高杉は俺の手を無理やり振り払い、もと
 いた机の横に戻った。でも、俺は知って
 いた。これが照れ隠しだということが。
 俺は今夜のことを考えて、胸をおどらせ
 ながら作業に戻った。








 愛しい愛しいおれの




 

 生徒会長×不良です。
 付き合いたてでまだまだ高杉は
 ツンツンしてます。
 …高杉にハンバーグって言わせて
 みたかった。後悔はしていない。


 誕生日おめでとう高杉!


100810.




















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