「てめぇに会いにきたわけじゃねェから
 な」

 可愛げの欠片もない、セリフを吐き捨て
 るのは紛れもない俺の恋人。会った途端
 にコレだ。
 …じゃあ、何しに来たんだよ。
 そんなツッコミが咄嗟に頭に浮かぶが、
 とりあえず自分より小さい(向こうは気
 にしているようだが俺はそんなところも
 気に入っていたりする)相手の細っこい
 手首を掴み取って玄関の中へと引っ張っ
 た。驚く恋人を横目に流れるような仕草
 ですぐに戸を閉めた。すると、最初の一
 言からそれきり喋っていない紫色の頭が
 笠を取ったせいで艶のあるそれが俺の目
 の前に現れた。それよりもコイツは実は
 馬鹿なんだろうか。いや、馬鹿なんだと
 思う。指名手配中の人物がこうも堂々と
 町中を歩いてこんなところに訪ねてくる
 だなんて。唯一、自分の身を隠そうと(
 実際にはどうかは知らないが)している
 のはその頭にあった笠のみだ。そして、
 それを外した今になっては何一つとして
 そのようなものは纏っていない。あるの
 は、紙袋を手に持っているだけだ。

 やっぱり、コイツの考えていることはよ
 くわからない。

 それよりも新八と神楽がいなくて良かっ
 た。

 見上げてくる、久しぶりに窺えた顔を見
 つめながらそう思った。



  * * *


 自分の言ったことに、じゃあ、何しに来
 たんだと言いたげな銀時に最もだと内心
 自嘲気味に笑った。だって、自分でも何
 しにわざわざ来たのかわからない。
 ただ、来島が美味そうに(一般的に見て
 、だ。俺にはそうは見えない)食べてい
 た甘ったるそうな団子を見たら銀髪頭が
 思い浮かんできただけで。だが、そんな
 理由を俺が言える筈もなくて、自分に言
 い訳するように相手にも言い訳の言葉を
 述べておいた。もちろん、言われた恋人
 は訳が分からないというような呆れ顔を
 したが。

 それは兎も角、いつもいる餓鬼共は今日
 はいないようで珍しく静かな万事屋の
 中へと足を踏み入れた。勝手に。

 「…で、どうしたの?いきなり」

 俺の向かえのソファーに腰掛けた銀時が
 訊ねてきた。

 …そんなもん、俺が訊きたい。

 来たくて来たわけじゃねェんだから。

 「…別に、理由なんてねェよ」
 「理由もないのに来たのかよ?え、そん
 なに銀さんに会いたかっ…」
 「んなわけあるか」
 「ちょ、酷くない!?」
 「俺がわざわざ、てめェに会いにこんな
 とこに来るわけねぇだろ」
 「…俺は会いに行くけどね。まぁ、どこ
 にいるかわかんねーから無理だけど」

 呟かれた言葉を聞いて嬉しくなったなん
 てのはきっと気のせい。そんな考えを見
 透かしたように憎たらしい笑みを作り上
 げている銀時を見たら例えそうじゃなく
 ともそう思いたくなる。

 しかし、わざわざ会いに来ないなどと言
 ってしまったからにはこの横にある団子
 をどのようにして渡そうか。ここで団子
 を渡すなんてことをしたら、わざわざ会
 いには来ないが、わざわざ団子は渡しに
 来るのかということになってしまうだろ
 う。それこそ、有り得ない。

 「ねぇ、晋ちゃん。それ何?」

 知らず知らずのうちに紙袋に視線を送っ
 ていたのか期待を込めた瞳で訊ねてきた
 。もしかして、俺へのお土産?と続けた
 銀時に誤魔化しながら素直に手渡した。

 「…土産じゃねぇけど、万斉がどっかか
 ら貰ってきたみてェで俺は食わないから
 てめえに押し付けようかと思ってなァ」
 「え、珍しいなオイ。…どうかしたのか
 ?」
 「黙れ。しょうがなくだ、しょうがなく
 」

 俺の言葉はまるで聞いてないように真顔
 で心配そうにみてくる銀時に思い切り眉
 間に皺を刻み込み怒鳴りそうになりつつ
 も、本当は今ここに来る前に買ってきた
 という事実がバレないようにする方が大
 事で、冷静を保った。

 甘いものを前にしたら、何もかもどうで
 も良くなったみたいで鼻歌でも歌いそう
 な様子で俺の渡した団子を食べ始めた。

 幸せそうに食べる銀時を見てたら、自分
 も嬉しくなってきて、顔をそらした。

 「それにしてもさ、」
 「あ?」
 「晋ちゃんって本当に可愛いよね」
 「……、喧嘩売ってんのかテメェ。切り
 刻んでや、」

 ぎろりと殺気を含んだ眼で睨みながら銀
 時に顔を向けるとそこには身を乗り出し
 た銀時の顔がすぐ近くにあって、人並み
 以上(本人はモテないとか言ってるが実
 は結構モテていると思う)に整ったそれ
 にドキリと胸が高鳴ったのと同時に唇が
 押し当てられた。薄く開いていた唇の隙
 間からぬめりとした舌が入り込んできて
 、口の中に甘ったるい味が広がった。と
 ても久しく思える相手との接吻にずっと
 このままでいたいという気持ちが芽生え
 るも唇はすぐに離れてしまいその気持ち
 は呆気なく打ち砕かれた。

 目の前にはにやっと悪戯っ子のように笑
 う恋人の顔。ああ、俺はこの表情が好き
 なんだと実感する。

 「これ」

 しかし、視界は真っ白な無機質なものに
 変わる。ぴらりと出されたのは先程買っ
 た団子のレシート。何故コイツがこんな
 ものを。そこで、ハッと気付く。

 「時間、今さっきになってんだけど」
 「…っ」

 顔に熱が集まっていくのが嫌という程わ
 かった。不覚だった。しかし、今更後悔
 したって大好きだけど苛立たせるこの憎
 らしい表情が消えるわけでもなくて。

 そうなったら、開き直るしかなく火照る
 顔のまま銀時の胸倉を掴んで乱暴に口づ
 けた。
 団子を見たら、こうやって幸せそうに食
 うコイツの顔が無性に見たくなってきて
 、それだけの理由で突発的に船を飛び出
 してきて、万事屋を訪れた。だなんて。
 信じたくもない自分のこんな気持ちが湧
 き出てきたから会いに来たわけで。

 (有り得ねェ、けど)

 それ程、この天パが好きだっていうこと
 なんだと、思い知らされた。




 「うるせェなァ、」





 てめェに会いたかったんだよ馬鹿。










 禁断症状
 (悪いかよ、)




















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