はいり様リクエスト
狙われてしまう沖田でシリアス



 別れ、とは唐突なものだ。ましてや、俺
 たちは侍なうえに真選組という武装警察
 なんて役職なわけで多くの人から反感や
 恨みを買っているのだからいつ何時に背
 後から斬られるかもわからない。まぁ、
 その可能性は少ない方だが。俺くらいの
 腕の奴ならそう簡単に背後から斬りかか
 られるなんて阿呆なことはしない。気配
 でわかる。しかし、それは相手の人数が
 少なかったときの例えで50、60人とかそ
 れ以上だなんていう有り得ない数だった
 ら流石に1人では無理だと思う。話がず
 れたが、そんなわけで別れは唐突に前触
 れもなく訪れる。もちろん、前から分か
 っているというパターンもあるがそれを
 伝えなければ自分は唐突でなくても相手
 からしてみればいきなり過ぎて状況がわ
 からないだろう。よく漫画である転校す
 るシーンで、なんで早く教えてくれなか
 ったんだとクラスメイトが主人公に泣き
 ながら訊ねることがあるのだが、そんな
 こと言われても困る。主人公だって、言
 いたくなかったわけでもないだろうし仕
 方がないことだ。誰にだって都合がある
 。あと、喧嘩している最中で仲直りをし
 ないまま離れてしまうというパターンも
 、そのときは数年後かに主人公が戻って
 きてその際にきちんと仲直りするという
 ことが多い。先が読めてしまって面白み
 がない。
 しかし、そんなベタな展開が現実であり
 得るはずなくて。いま現在、おかれたこ
 の状況を黙って受け入れるしか方法はな
 かった。どうして、今回に限って口もき
 かないほどの喧嘩をしてしまったのだろ
 うか。後悔なんて後からしても遅い。気
 付いたときにはもう手遅れだ。分かって
 いる、もう何度経験したことか。

 これは、一瞬でも気を緩めた自分の責任
 だ。何日も前から分かっていたことだっ
 た。何処を歩いていても何処かから妙に
 視線を感じる。それが毎日続いた。時に
 は刀を向けてきたこともあった。そのと
 きは丁度風邪のせいで頭が熱におかされ
 ていたから、反応が遅れ顔に傷を付けら
 れた。屯所に帰ると山崎が目敏くそれに
 気付いて手当てをしてくれた。適当に転
 んだとか理由付けをしたのだが、きっと
 山崎は感づいていたのだろう。それでも
 、俺のことも頼ってくれてもいいんです
 からねの一言で終わらせたのはあの人が
 何とかすると思ったからなのか。決して
 、深く触れてこないのは山崎の優しさだ
 。でも、言わなかった。あの人には。

 昨日もやはり誰かにつけられていたよう
 で、自分の中にも恐怖という感情が本格
 的に顔を出し始めてきた。誰にも話すこ
 とができないというのが更にその感情を
 倍増させていたのだろうか。そんなとき
 、万事屋の旦那を見かけた。真選組に余
 計な迷惑をかけたくなくて、そうしてい
 たのだが生憎旦那は真選組の人間ではな
 い。とりあえず、そのときは誰かと一緒
 に居たくて旦那に声をかけたら、流石は
 旦那とでもいうように俺のあとをつけて
 いる奴らにすぐさま気付いたようで、お
 ちゃらけた態度をとりながらも奴らが諦
 めるまで一緒に居てくれた。だが、旦那
 は何も訊いてこなかった。それが、その
 優しさがたえきれなくて、全て話してし
 まった。しかし、それが悪かった。あの
 人を、怒らせた。

 意味もない言い争いをして、いつも通り
 で、でもいつも通りではない斬り合いを
 して。最後は、アンタなんかより旦那の
 方がよっぽど話しやすいし頼りになる、
 この俺の一言が一気に現状を悪化させた
 のだ。本音ではない。本音のはずがない
 。あの人は、誰よりも頼りになるし、誰
 よりも信頼している。俺のことを一番理
 解しているのはあの人だ。俺よりも俺の
 ことを知っているのかもしれない。だか
 らこそ、心配かけたくなかった。あんな
 言葉、言うつもりなんてなかったのに。

 俺を拘束する腕をぼんやりと靄のかかっ
 た瞳でみつめる。ああ、俺捕まっちまっ
 たんだっけ。薄暗い路地裏には、真っ黒
 い影がたくさんあった。その中には人間
 ではないものも混じっている。ぐるぐる
 とまわる頭の中。何か薬を嗅がされたら
 しい。ずきんと痛む頭に響くのは、誰だ
 かが気に入っただとか連れ帰るだなんだ
 という聞いたことのない声。きっと罰が
 当たったんだ。あんなこと言ったから
 。

 助けを呼ぼうにも呂律がまわらない。俺
 、殺されるのかな。どこかに連れて行か
 れるのは確かだけど。流石の俺ももう駄
 目かもしれない。
 何も考えることのできないはずの頭にた
 だ一つ浮かぶのはあの人の顔。俺どうな
 っちゃうのかなという、どこか他人事の
 ような場違いな思考はかき消されて、い
 ま思考を占めるのはただあの人に会いた
 いという簡素なものだけ。

 そろそろ、意地で閉じないようにしてい
 た瞼も限界を迎えてきているようだ。相
 手の方も俺を連れて行く準備が整ったよ
 うだった。とうとう誰もこなかった。…
 当たり前なのだが。それよりも、助けに
 きてもらおうだなんて自分から何も言お
 うとしなかったくせに自惚れるのも大概
 にしろよ、俺。いつからこんな風に変わ
 ってしまったのだろう。誰かが助けてく
 れるなんて。あの人が守ってくれるよう

 になってからか。自嘲気味に口元に弧を
 描いた。
 どうして自分は素直じゃないんだと毒づ
 いたことは何度もあるが今以上に思った
 ことはない。滑稽だと思う。身体が軽く
 なり抱き上げられたと分かった。

 闇に落ちていく視界に小さく映ったのは
 愛しい恋人の姿。

 「…土方…さん…」

 最後に聞いたのは、俺の名を叫ぶ心地が
 いい聞き慣れた愛しくて愛しくてたまら
 ない大好きな声だった。







 Soundless Voice
  (ねえ、その声をきかせてよ)












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