3Z




 先生ェ、暑い。
 そうだね…、うん。暑いわ。

 これで、何度目だろうか。このやりとり
 は。暑くて数える気すら起きない。
 視界の端にうろつく亜麻色の髪をみて、
 どうしてこうなったのかと思い返してみ
 た。


 景色はすっかりと夏、という感じになっ
 ている。雲一つない、真っ青な俺たちに
 暑さという苦しみを与え続けている忌ま
 忌ましい空。緑に染まった並木道。そこ
 を涼しそうな恰好で、それでいてまだ暑
 そうに歩く人間たち。耳には、うるさい
 蝉の鳴き声と時折聴こえる風鈴の音色。

 夏だなあ、と実感する。


 いまは夏休み。つまり、家でゴロゴロし
 ていても許される。こんな暑い日は冷え
 冷えのいちご牛乳を一気飲みしたい。あ
 の甘い風味が口の中に広がって、そして
 頭にキーンと響く冷たさ。これほど、最
 高なものなどない。パフェも捨てがたい
 のだが、あの炎天下に外など出る気もし
 ないので仕方なしに諦めた。

 せっかくの休日だ。今日はあのうるさい
 餓鬼ども(自分のクラスの生徒なのだが)
 と顔を合わさなくて済むのだ。嬉しくて
 かなわない。

 そんなわけで、さっそくジャンプでも読
 みながらいちご牛乳でも飲もうとした矢
 先。

 ぴーんぽーん。

 軽快な音が家に訪問者がきたことを告げ
 た。ったく、誰だよ。文句を言いながら
 玄関を開けに行くとそこには。

 「…遊びにきやした」

 クソ生意気な餓鬼…じゃなかった、俺の
 可愛い可愛い恋人が立っていたわけだ。


 ここまではいい。恋人が自分の家まで来
 てわざわざ会いに来てくれたなんて嬉し
 くないわけない。

 問題はそのあとだった。


 「あのさぁ、沖田くん」
 「なんですかィ」
 「暑いんだよね?」
 「へェ、暑いですね」
 「…だったらさ、俺から離れればいいん
 じゃない?」

 そう。コイツは、いまジャンプを読む俺
 の脚の間に座っている。しかも、寄りか
 かってきているのだ。先ほどからずっと
 。それでいて、暑い暑いと言っているの
 だ。まあ、悪い気はしねェし寧ろ嬉しい
 んだけど。

 「ホラ、俺もジャンプ読みづれェし、男
 二人くっついてっから暑いと思うんだよ
 ね」

 俺が言ってるのは正論だよな。うん。だ
 って、おかしいもん。暑いのにわざわざ
 ベタベタと人にくっつく奴なんていない
 だろう。余計に暑くなるに決まっている
 。それにしても暑い。暑いわ。あれ?暑
 いっていうのこれで何回目?

 「嫌でさぁ」
 「…え?」

 馬鹿なの?この子?ねえ、馬鹿なの?

 …ああ、マジ暑いし、なんかもう喋んの
 もめんどくさくなってきた。

 「えーと、沖田くん?俺が言ったことわ
 かる?わかってて言ってる?」
 「あーもー、うるせェなァ。暑いんだか
 ら喋らせないでくだせぇよ」
 「だから、お前のせいで暑いの!」
 「……、そんなに俺がくっついてるの嫌
 なんですかィ」
 「…そうとは言ってねェだろ」
 「じゃあ、いいでしょ。俺に甘えられて
 嬉しいんじゃないですか」

 図星をつかれて、視線を泳がせていると
 今までの会話はなかったかのようにまた
 ぴとりと身体を預けてきた。

 いや、そういう問題じゃねェんだけど。
 つーか、解決してねェ…。けれども。

 「センセ、」
 「ん?」
 「ふふ、暑いですねィ」

 くるっと身体を回転させて、嬉しそうに
 笑いながら抱き付かれてしまってはもう
 離れろだなんて言えなくなってしまって
 。

 「…そうだな」

 暑い暑い言いながら、仕返しとばかりに
 包み込むように強く抱き締めてやった。






 キミ温度。
  (溶けてしまいそう)















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