何だかんだ言いながらも連れて帰ってき
 てしまった俺を誰か笑ってほしい。…い
 や、笑えない。言い訳をするのならば、
 あの雨の中に震えている人間を見て見ぬ
 ふりをしてあの場にそのまま放置するな
 んてこと普通に良心を持っている大抵の
 人間なら出来ないはずだろう。
 捨て猫と同じだ。か細い声で一鳴きされ
 れば、放っておくことなど出来ない。少
 なくとも、立ち止まりはするだろう。も
 っとも、捨て猫なんて小さな生き物では
 ないのだが。しかし、身にまとっている
 黒い布から一瞬だけ覗いてみえた、泥で
 汚れつつも尚、車のライトに当たって輝
 いた綺麗な亜麻色の髪に心を奪われただ
 なんて信じがたい事実なのだが、いま目
 の前で眠りこけている黒がその事実を思
 い知らすように俺を追い詰めた。気を紛
 らわそうと数分か前につけたテレビの音
 なんて耳には届かない。
 どうするかと悩んだ結果、まだ一向に起
 きる気配のないコイツをとりあえずは風
 呂にいれることにした。雨に濡れていた
 ことだし、このままだと風邪を引いてし
 まう。

 フローリングの床に居たコイツをひょい
 と抱き上げる。車に乗せるときと同様に
 軽々しく持ち上がってしまうコイツの身
 体に何故だか心配になる。ちゃんと食っ
 てたのか、今日初めて出会ったばかりだ
 というのにそう思うがあんな場所に丸ま
 っていたということはやはりそれなりの
 生活だったのだろう。それにしても、軽
 すぎやしないだろうか。そう思って下を
 向く。真っ白い肌に伏せられた瞳が視界
 に映った。

 (…睫毛なげー)

 あ、ちょっと待てよ。コイツ、もしかし
 て女じゃねぇか?髪は短かったから、勝
 手に男だと思い込んでいたが実際はコー
 トのような黒い服を纏っていて言うなれ
 ばてるてるぼうずのようになっているし
 もちろんまだ目を覚ましていないから声
 だってわからない。もし女だとしたら、
 俺が風呂なんかにいれたらまずいことに
 なる。
 一瞬どうしたことかと迷ったせいで足を
 止めると抱き上げていた──いま問題と
 なっている人物の睫毛が震えた。

 「…起、きたの…か?」

 緊張してしまい、我ながら情けないと思
 える声で話し掛けた。

 「……」

 開いた瞳は綺麗な蘇芳色をしていた。透
 き通るような深い紅に自分の顔が映って
 おりまるで吸い込まれてしまったかのよ
 うに見えた。俺はくりくりとしていて、
 己のつり上がった瞳とは正反対のまん丸
 い瞳から目が離せずにいた。
 眠たげにいまにも閉じてしまいそうな瞼
 が揺れていてその表情は幼い子供のよう
 だった。しかし、それは間違いだとすぐ
 に思い知らされた。

 「あんた、誰?」

 表情に不快感を丸出しにして訊ねられた
 。返答に困る。そもそも、それはこっち
 が訊きたいくらいだ。

 「ここどこでぃ?俺、ゴミ捨て場の横で
 寝てたはずなのに」

 あれはわかって寝てたのか。
 きょろきょろとまわりをみてから、警戒
 するようにじぃっと俺を窺ってきた。

 「俺は土方だ。んで、ここは俺の家」

 俺は一応それだけ答えて、風邪を引くか
 らとりあえず風呂に入ってこいと少々強
 制的に風呂場まで連れて行った。タオル
 の場所やらを簡単に教えると着替えに新
 品のワイシャツとジーパンを置いておい
 た。
 少し経つと小さくシャワーの音が聞こえ
 てきたから入ったのかと安心した。


 * * *


 シャワーの音が響く中、俺は頭を悩ませ
 ていた。勢いで連れて帰ってきてしまっ
 たものの、本来ならば警察に連れて行く
 べきなのではないか。先ほどの言葉を聞
 く限り、自分からあの場所に座り込んで
 いたらしいからもしかして家出してきた
 のかもしれない。
 ともあれ、直接話を聞かなければ事実は
 わからない。なので、気持ちを落ち着か
 せるためテレビをつけて面白くもない番
 組にただひたすら視線を送って待ってい
 た。

 15分もしないうちに風呂場の扉が開いた
 音がした。上がってきたかとテレビのチ
 ャンネルを手にして、電源を消すボタン
 を押しながら廊下を窺う。

 「大丈夫だった…か…、」

 がしゃんとリモコンが床に落ちた。やば
 い。壊れたかもしれない。しかし、そん
 なことを気にする余裕などなかった。

 さっきと同じ餓鬼だよな、あれ。水滴で
 濡れた亜麻色の髪に蘇芳色の瞳。そして
 、真っ白な肌。俺の貸したワイシャツを
 一枚だけ羽織っており、何故か下は穿い
 ておらず下着がちらちらと見え隠れして
 いてそこからすらりと細い脚がのびてい
 るということは敢えてスルーしておき、
 そこに立っているのは俺が拾ってきた餓
 鬼には違いなかった。恰好よりもそれよ
 り、不可解なものが頭にある。

 「…お前、それ何?」

 てとてとと此方に歩いてくる亜麻色の頭
 を指差して訊ねた。

 すると、目の前の餓鬼はその不可解なも
 のを指でふにふにと触りながら、

 「え、猫耳ですけど、みてわかりやせん
 か」

 そう答えた。
 どうやら、とんでもないものを拾ってし
 まったようだ。
 本当に捨て猫だったとは。







 冗談じゃない










 意味もなくわけてしまった…
 まだ続きます








.
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -