やっとのことで仕事を終わらせて、パソ
 コンを見るために縮こまっていた身体を
 大きく伸ばす。気付くと外はすっかり陽
 も落ちて、真っ暗になっていた。そうい
 えば、オフィスも俺一人しかいない。も
 しかすると声を掛けられたのかもしれな
 い。
 仕事に熱中し過ぎると周りの声が聞こえ
 なくなってしまうというこの癖も早く直
 さなければ、いくらこのことをわかって
 いる故に怒らないでいてくれている同僚
 の奴らにも悪い気がするし、そもそも社
 長がああいう人じゃなかったら即刻クビ
 にでもなっているのではないかと思う。
 社長に対してもきっとそういうことをし
 ているのだから。それなのに、クビにす
 るどころか俺のことをトシと親しげに呼
 んで大事な仕事も任せてきてくれるあの
 人は、密かに俺の憧れの存在でもある。
 社員や会社の為にどんなことでもするあ
 の人に尊敬の意志を持っている社員は少
 なくはないはずだ。むしろ、全員なので
 はないか。もちろん、俺もその中の一人
 だ。

 だからこそ、あの人のまわりには人が集
 まるのだ。俺は、一生あの人についてい
 く、そう決めている。
 乱雑な机の上をきちんと整頓すると、鍵
 を片手にオフィスを出た。


 * * *


 車を停めてある駐車場に向かっている最
 中に雨も降っているということを知った
 。梅雨の時期だな、と呟いたら駐車場に
 思いのほか、よく響いた。
 車に乗り込むとオフィスに鍵をかけたこ
 とを頭の中で再度確認してから車を発進
 させた。駐車場から出ると雨は思ってた
 より結構な勢いで降っていて、一気に車
 を濡らしていった。
 雨が降っているせいか、歩いている人は
 少なく、車通りも若干少ない気もする。
 普段と変わらぬ帰り道を通ってマンショ
 ンに帰る。普段と変わらぬ風景が俺を迎
 えてくれる筈なのだが。

 「…あ?」

 マンションの近くのいつもゴミを捨てて
 いるゴミ捨て場を横切ろうとしたとき、
 不自然な物体がみえた。ゴミ捨て場の影
 に隠れるようにある、黒い物体。

 明らかに可笑しいソレについ車を止めて
 しまった。
 車の中から様子をうかがうが、土砂降り
 の雨のせいと暗いせいでよくみえない
 。

 と、その時。僅かながらもその物体が動
 いた気がした。
 雨降りの夜ということもあり、今日に限
 って人通りが少ないらしく、まわりをみ
 ても人気が、無い。背中に変な汗が伝う
 。

 人間という生き物は何故、怖いと感じて
 いながらもそのモノに近付いていくのだ
 ろうか。どうなってしまうかというのを
 ある程度は予想出来ているのにも関わら
 ず、気付かない振りをするのか。

 よくホラー映画などの類で、振り返って
 はいけないとわかっているのに振り返っ
 てしまい殺される、なんてシーンがある
 。俺はそういう映画はみない(断じて怖
 いわけではない)のだが、学生時代、ど
 っかの銀髪バカにみせられたことがあっ
 た。それが丁度そのシーンで、何で振り
 返っちまうんだよコイツ、馬鹿か、等と
 頭ん中で思っていたが、今になってみる
 と振り返っちまったアイツの気持ちが良
 くわかる。
 あぁ、何で俺、車から降りてんだ。

 傘を差しながら、黒い物体へと恐る恐る
 足を進ませる。よく見ると何やら小刻み
 に震えていた。透けてもいない。どうや
 ら、この世にいてはいけないモノではな
 かったらしい。ほっと胸を撫で下ろす
 。では、一体何なのか。
 ゆっくりとしゃがんで、黒い物体と同じ
 目線になってみた。

 「……っ!」

 驚きのあまり身体が固まる。黒い物体は
 、生き物だった。しかも、自分と同じ人
 間だ。今時、こんなマンガみたいなこと
 があるのか。何だコレ、信じられない。
 泥まみれになった餓鬼が雨の中、一人で
 座り込んでいるだなんて。
 そして、その餓鬼を連れて帰ろうとして
 いる自分がいるだなんてこと。













 君も僕も大概は












 続きます






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