「…そんなに煙草が好きですかィ?」
 「…あ?」

 屋上には俺と総悟の2人しかいない。そ
 れもその筈。だって、今は本来ならば授
 業を受けていなければいけない時間だか
 ら。
 総悟が一時間目が終わったかと思えばす
 ぐに教室から出て行ったから何事かと追
 いかけていったのだが、着いた場所は屋
 上。何ついてきてんですか、アンタもサ
 ボんの?と平然として訊ねてくる総悟に
 なんて答えようかと迷っていたら背中か
 ら授業の始まりを告げるチャイムが聞こ
 えてきて、授業始まっちまいましたね、
 なんて嬉しそうに言ってきたのを見れば
 もう授業なんてどうでもよくなってしま
 って。
 しょうがねえからサボるわ、そう言った
 あとにみせた総悟のにやり顔。あぁ、一
 緒にいてほしかったのか。瞬時に理解し
 てしまい、どうしようもなくこの恋人が
 愛しく感じて堪らなかった。
 よからぬことを考えてしまいそうで、そ
 れを掻き消すために煙草を吸っては捨て
 てを繰り返していたら何とも不機嫌そう
 にそんなに煙草が好きかと訊かれた。

 いや、俺が好きなのはお前だけだよ。そ
 んな台詞が浮かんで、口に出そうとして
 やめた。こんなこと言ったら確実に気持
 ち悪いだの何だのと言い返される。

 何本目かもわからない煙草を右手の指に
 挟んでいたら総悟に奪い取られた。

 「アンタ、煙草吸いすぎ。今からこんな
 に吸っててどうすんの」
 「んだよ、心配でもしてくれてんのか?
 」
 「そんな訳ないでしょうが。アンタが死
 んだって俺は別にどうでもいいんですけ
 どね、」

 はっきりと否定されて、どうでもいいん
 ですけどねなんて言われて、ちょっとだ
 け傷付いたなんてことは秘密で。でも、
 心の底から思ってるんじゃないというこ
 とはわかっているから、逆に愛しく感じ
 てしまう。

 「寧ろ死んでほしいけど、それはそれで
 色々と困るんでさぁ、俺が」

 こういう素直じゃないところとか、特に
 。ぽいっと俺の吸っていた煙草が地面に
 投げ捨てられる。あーあ、最後の一本だ
 ったのに。

 「…色々ってなんだよ、色々って」
 「そ、れは…」

 総悟は頬を赤くして、言葉に詰まってい
 る。可愛いなオイ。

 「…い、色々…でィ」

 結局、答えになっていなくて誤魔化して
 いるのがバレバレだった。
 すると、いきなり俯き気味になっていた
 顔をばっと上げて普段と変わらぬ強気な
 瞳に俺を映してきた。

 「とにかく、今この瞬間からアンタは禁
 煙しなせェ」

 「はぁ!?」
 「俺が良いって言うまで吸ったら駄目だ
 から」
 「おまっ、勝手に決めてんじゃねーよ!
 」

 自分勝手過ぎる決めごとを押し付けられ
 、怒鳴り散らす。冗談じゃない。煙草は
 重要な役割を果たしているんだぞ。…理
 性を保たせるために吸ったりとか、誤魔
 化すためにとか。煙草が歯止めになって
 いたのだ。それがなくなるって事は歯止
 めが効かなくなるってことで。…コイツ
 、わかってんのか?

 「いいでしょ。今まで、散々と煙草ばっ
 かり吸ってきたんだから。」
 「だからこそ、困るんだよ」

 盛大に溜め息を吐いて、額に手を当てる
 。しょうがないから、総悟のいないとこ
 ろでこっそりと吸うようにするか。

 ぶつぶつ文句を言っていると、するりと
 白い手が俺の首の後ろにまわされてぐい
 っと下に引っ張られた。
 柔らかい感触を唇に感じたかと思うとそ
 れはすぐに離れていってしまって。まだ
 その感触を味わっていたいと思わせるそ
 れは、ひとつしか思い当たらず。

 「口寂しいんなら、これで我慢しなせえ
 よ」

 目に入ったのは耳まで真っ赤で俯く総悟
 の姿。総悟から口付けてくることなんて
 、滅多にないから驚きのあまり硬直して
 しまった。
 総悟の言葉にはっと我に返ると、そうい
 えば最近キスなんてしてなかったなと思
 い出す。今のが、すごく久しぶりだった
 。

 「…くくっ」
 「なっ、何笑ってんでさぁ!」
 「だって、お前…煙草に…、」
 「っ何でィ」
 「…、なんでもねぇよ。…ったく、可愛
 い奴」

 とうとう、背中を向けてしまった総悟を
 後ろから抱き締めると耳元に優しく囁い
 た。

 「煙草より、こっちの方が断然いいわ」

 悪ぃけど、こっちは我慢出来そうにない
 な。煙草なんか、必要無く思えちまう
 。いや、必要無いか。

 この嫉妬深くて我が儘な、可愛い恋人さ
 え居てくれればそれでいい。









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