まだ肌寒い夜風が、ひゅるりと身体を冷
 やす。真っ黒な闇にぼんやりと欠けた月
 が浮かび上がっている。
 長い出張でやっと帰ってこれて、いち早
 く愛しい恋人に会いに行こうと思ったら
 今はこんな夜中。みんな寝静まっている
 。何も無ければ、意外と寝るのが早い総
 悟のことだから帰る日にちを伝えていな
 いので当然、今この時も夢の中にいるの
 だろう。それならば、起こさずに顔を一
 目みてくるだけにするか。


 * * *


 沖田の部屋に足を運んできてみたのだが
 、襖の間から覗いた先には栗色は見当た
 らなかった。人の気配がしなくて、不信
 に思っていたら案の定、だ。
 起きているのだろうか。こんな、夜中な
 のに。思い当たるとすれば厠くらいしか
 ない。
 静かに襖を閉めると後でもう一度、訪れ
 ることにして動きにくい隊服を先に着替
 えることにした。

 「…、総悟?」

 襖を開いた途端に人影がみえて、みえて
 はいけないものでもみえてしまったのか
 と一瞬、息を呑んだ。
 だが、それはみえてはいけないものなん
 かではなくて寧ろ、みえてほしいもので
 。何故、自分の部屋で寝ていないのか。
 ほっとしながら部屋に入り、とりあえず
 、疲れ果てた身体を休めるべく適当な場
 所に腰をおろした。
 ご丁寧に土方の布団を敷いて、土方の枕
 で、そして誰のだかわからない抱き枕を
 抱いている。とは言っても、沖田が持っ
 ているのだから沖田のものなのだろうが
 。
 いつの間にこんなもん買ったんだ。然し
 、こう…自分の布団で気持ちよさそうに
 眠られると自分の部屋に戻って寝ろなん
 てこと言えなくなる。理性的なものも、
 僅かながらにグラつく。

 「ひじか、た…さ、ん」
 「…!」

 もぞもぞと動いて、布団からはみ出なが
 らふわりと微笑み愛しそうに抱き枕を抱
 き直して土方の名前を呟いた。

 (何コイツ可愛すぎなんだけど!)

 更に土方の理性をグラつかせる沖田の行
 為に目を逸らさずにはいられなかった。
 いくらなんでも、いくら数週間、沖田に
 触れられなかったからといっても、寝込
 みを襲うことなどできない。

 そう自分に言い聞かせて、寝間着に着替
 え始めた。
 みてしまえば、今度こそ理性がやばい。
 わかっていた。だが、ほんの一瞬、魔が
 差して沖田をみてしまった。そして、す
 ぐに後悔した。
 既に布団など、使命を果たしておらず遠
 慮がちに腰のあたりにのっているだけで
 他は横に落ちていた。
 その間からスラリと伸びている、真っ白
 い脚。抱き枕を脚で挟んでいるせいで寝
 間着は捲り上げられていて、太ももが晒
 け出されている。
 キメ細かい肌が暗闇の中でも微かな月の
 光が当たっているだけでその存在を一層
 引き立てていた。
 まだ中途半端に着ている寝間着のことな
 んて頭から飛んでいて。
 触れたい。
 その感情だけが頭を支配する。
 コイツにはこういう感情を誘い込む能力
 でもあるのか。

 近くに寄り、沖田の脚の横に片手をつい
 て寝間着の裾にそって指先を走らせた

 。

 それまで、規則正しく聞こえていた寝息
 が一瞬で乱れた。

 (…相変わらず、敏感な身体だな)

 そうしたのは、自分なのだが。土方は苦
 笑いを零す。

 「ん、…っ」

 脚のラインをつー、となぞってやると甘
 い声が聞こえた。土方はニヤッと笑うと
 出来るだけ内股の近くに軽く唇を当てる
 とちゅ、っと吸い付いた。唇を離すとそ
 こには真っ白な肌によく映える綺麗な赤
 。
 その赤をぺろりと舐めた。
 さあ、いつになったら瞼を開くのやら。
 月は、雲の中に消えていった。










 moon
 (寝たフリしてることなんてお見通し!)





















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