目障りなイルミネーションがそこらじゅ
 うにみえる。それは、いまの自分の気持
 ちなんか考えもせずにきらきらとまわり
 を鮮やかに飾っている。眺める気にもな
 れず、スタスタと早足で通り過ぎていく
 。片手には少し大きめの、手提げ鞄。一
 人暮らしだったせいか荷物は少ない。
 …親、という生き物はどうしてあんなに
 も自分勝手なんだろうか。子供の気持ち
 なんか考えないで勝手に決める。親だか
 らってなんでもかんでも勝手に決めてし
 まっていいのか。親には勿論感謝してい
 る。ここまで育ててくれたのは誰でもな
 い母と父なのだから。しかし、だからと
 言って子供の結婚相手を勝手に決めるな
 んてことをしていいわけじゃない。将来
 の相手くらい自分で決めさせてほしい。
 自分の人生なのだから。
 しかも、それに加えて地元に戻ってこい
 だなんて。自分勝手にも程があるだろう
 。…でも。
 これで、姉が少しでも楽な生活を出来る
 っていうなら文句なんていわない。拒否
 なんてしない。
 それに、丁度いい。あの人と離れること
 ができる。駄目なんだ。近くに居たら。

 離れた方があの人の為。
 自分の為、なんだから。

 あの人にある感情を抱いてしまっている
 のだから。
 このままだと駄目だった。

 どうしても言えなかった

 こんな気持ち、言える筈がない。
 ただ気持ち悪がられるだけだ。そんなこ
 とされるのなら言わない方がいい。いま
 のままの関係の方がいいんだ。そんなの
 、今更。今更どうかしようだなんて考え
 ていない。だから、気持ちをおさえつけ
 た。

 前から決めていたことだから

 あの人から離れるだなんて、都合がいい
 。その方が忘れられる。毎日、学校で顔
 を合わせてしまうのだから。正直忘れら
 れる自信がなかった。

 だから、これでいいんだ。

 振り向かないから

 人混みの中、一度も足を止めずにスイス
 イと人を避けて歩いていく。足は止めて
 は駄目。…思い出してしまうから。何も
 考えずにただただ駅へと向かう。

 それなのにじわりと目に水分が発生して
 しまうから急いでそれを拭いとる。寒さ
 で真っ赤になった手をぼやける瞳で見つ
 めた。すると、ふわりと白い結晶が舞い
 降りてきた。無意識に伸びた手でそれに
 触れてみたら直ぐに溶けてなくなってし
 まった。そんな光景に再び目から水分が
 溢れそうになってしまって、必死でこら
 えた。

 しんしんと雪が降り積もる中、駅へ向か
 って大通りを歩いているとクリスマスが
 近いせいなのかカップルが目に余る程た
 くさんいた。ふとベンチで寄り添ってい
 るカップルが目に映った。
 

 「ほらみて初雪!」

 彼女の方が真っ白な空を指差しながら言
 った。それは、とても楽しそうで…幸せ
 そうで。彼氏の首には手編みのマフラー
 が巻かれていた。彼女からの贈り物だろ
 う。

 (…俺も、)

 ちらりと鞄に視線を向けた。くちが開い
 ている構造のそれからは決して綺麗とは
 言えないラッピングが施されている手編
 みのマフラーが僅かに見える。

 (せっかく作ったのに)

 徹夜して作ったマフラー。所々ほつれて
 しまっているかもしれない。マフラーな
 んて作ったことないから、姐さんに教え
 てもらいながら作った。ついでだから、
 と言って姐さんも作っていたら近藤さん
 が自分の為に作ってくれているのかと勘
 違いして嬉しさのあまり大泣きしてたん
 だっけ。

 (渡したかったなァ…)

 意気地なし

 (どうしたら渡せたんだろう)

 怖かっただけ


 まあ、でも、こんな思い出になるなら渡
 さなくても良かった。このままでいい。

 それは本当なの?


 駅に着いてもカップルは大量にいて、思
 わず顔をしかめる。冷たい風を受けなが
 ら列車が来るのを待っていた。そんな中
 、頭に浮かぶのはあの人のことばかり
 。

 いつかこんな時が来てしまうこと

 (なんで…っどうして…)

 わかってたはずだわ
 なのに

 気持ちを紛らわす為にもう感覚のなくな
 ってしまった両手の手の平に暖かい息を
 吹きかける。すると、手が震えているの
 がわかった。それは寒さのせいだけでは
 ないのをすぐに理解してしまった。
 ──…どうして今更。

 駅にある時計に視線を向けるとあともう
 少しで列車が到着する時刻だった。

 もうすぐ列車が来るのに

 それなのに、今更になって行きたくない
 という気持ちが、あの人と一緒に居たい
 という気持ちが湧き出てきてしまう。

 おさえつけたはずなのに。

 それは今になって

 (会いたいよ)

 私を苦しめる

 (…土方さん…っ)

 ─繋がりたい。
 どれほど願っただろうか。
 自分の気持ちを伝えたいのに伝えられな
 い。もどかしくて堪らなかった。
 そればかりか、一緒にいればいるほど気
 持ちは募るばかりで。

 この手は空っぽ

 常に一緒に居たはずなのに、得たものは
 何もなくて、何も出来なくて。

 (ねえ、土方さん──)

 ねえ、サヨナラってこういうこと?


 目の端に列車が此方に向かって走ってく
 るのが映った。まわりに居た人たちが一
 斉に前に出てきた。完全に列車が止まっ
 て扉が開く。乗らなきゃいけないのに足
 が動かない。まるで根がはえてしまった
 ようだ。必死な思いで足を進め列車に踏
 み入れようとした瞬間、腕を後方に引っ
 張られてそれは妨げられてしまった。

 なんなんだと後ろを振り向いたら、そこ
 には思いもしない人物が立っていて。

 「……土方…さん」

 「…どこ、行くんだよ」

 土方さんは息を荒げていて、走ってきた
 のだとすぐにわかった。わかってしまっ
 たのと同時に自分の為に走ってきてくれ
 たのかと思ってしまいなんともいえない
 嬉しさが込み上げてきた。しかし、嬉し
 くなんて思ってはいけないと自惚れるな
 と自分に言い聞かせる。だって、もう行
 かなくてはならない。わかっている、そ
 んなこともう痛い程わかっているのだか
 ら。

 君が優しいことも知ってる

 ──あんたが優しいこともわかってる。
 俺があんたに何も言わなかったからなん
 だろう。最後の最後まで一緒に居たのに
 一言もそんなこと言わなかったから。い
 つも通りにからかって、いつも通りにた
 わいのない話で盛り上がって、いつも通
 りの場所で別れて…。

 毎日過ごしている日常と変わりなかった
 からなんだろう。

 いつもより低い声色。明らかに怒ってい
 る。
 …だって、しょうがないだろう。俺が引
 っ越すって聞いたらあんたはなんて言う
 ?いなくなってくれてせいせいする?何
 も言わない?もしくは…。

 そんな考えが頭を支配して、怖くて言え
 なかった。それに土方さんの顔をみてい
 たら…行きたくなくなる。

 もう決めたんだ。だから。

 「……手ェ離してくだせぇ」
 「……この手を離してよ」

 手を離せと言って素直に離す相手でない
 ことはわかっていた。案の定、離そうと
 する気配はなかったから無理矢理振り払
 った。
 触れられた場所がまだ土方さんの手の感
 触を覚えている。そこから、この人と離
 れたくないと訴えてきているような気が
 した。この手の、この人の傍に居たい、
 とおさえつけた筈の気持ちがおさえつけ
 ることができなくなってしまった。


 出会えて良かった

 ──あんたが好きなんだよ。

 そろそろ列車が発車してしまう。タイム
 リミットはあと一分。最後に一言だけ言
 わせて。身体を反転させて驚いているよ
 うなどこか哀しげな表情の土方さんに顔
 を向ける。改めて、本人を目の前にして
 しまうとなかなか言葉が出なくて。もう
 いまの関係には戻れないかもしれないと
 いう恐怖で頭の中が一杯でこんなときな
 のに勇気がでない。お願いだから。


 今だけでいい

 俺に勇気を。

 途端に目に涙が溜まっていくのがわかっ
 た。手を握り締め、覚悟を決めて口を開
 く。ぽろりと頬に涙が伝い落ちた。

 「あのねィ──」












 言いかけた唇
 君との距離は0
 今だけは泣いていいよね
 もう言葉はいらない
 お願い
 ぎゅっとしていて









 遠くから発車のベルが鳴り響いていた。











 ありがとう、サヨナラ
 (来年の今頃には
   どんな私がいて
    どんなキミがいるのかな)











 初めての恋が終わる時/初音ミク




持ち帰り











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