ピンポーン、と機械的な音が家の中に響
 いた。
 晩御飯を食べ終わると毎日欠かさずみて
 いる某ドラマの再放送をいつものように
 ソファに寝そべりながらみていた途中で
 しかも、ちょうどそのドラマの重要なシ
 ーン…所謂、良いところで誰かが訪ねて
 きたらしい。名残惜しいが、たかがドラ
 マの為に居留守を使うというのも少し気
 が引けるのでしょうがなくソファからよ
 いしょ、と年寄りのような声を漏らしな
 がら起き上がれば横目でテレビをみなが
 ら玄関へと向かった。玄関までの廊下を
 ブツブツと文句をいいながら気怠そうに
 ぺたぺたと歩いているとその間に何回も
 インターホンが鳴らされて耳障りな音が
 部屋の中だけでなく頭の中にまで響いて
 くる。まったく、迷惑な訪問者だ。

 玄関のドアの前まできてドアノブに視線
 を送ると鍵は閉め忘れていたのか開いて
 いた為ドアノブに手をかけるとそのまま
 がちゃりと下に捻った。

 「はいはい、ったく…誰だよ。セールス
 はお断りで」
 「trick or treat!」

 銀八は、ぼりぼりとコンプレックスのそ
 の銀色の天然パーマの頭を掻きながらド
 アを開くと自分の言葉を遮って聞き慣れ
 た声が耳に届いた。玄関の前に立ってい
 たのは黒い装束を身にまとった亜麻色の
 髪の…銀八が密かに─には見えないのだ
 が、想いを寄せている自分のクラスの生
 徒だった。
 全く状況が分からなくて珍しく目を丸く
 して沖田を見つめながらドアノブに手を
 かけたまま立ち竦んでいると再び目の前
 の亜麻色が口を開いた。

 「お菓子くれなきゃいたずらしちゃいや
 すぜ」

 ─いや、立ち竦んだのではない。"見と
 れて"いたのだ。
 沖田は黒い装束…所謂、魔女の格好をし
 ていた。先ほどの沖田の言葉とその服装
 で潔く、今日は10月31日…ハロウィンだ
 ということを思い出した。しかし、問題
 はそこではない。銀八は沖田のその姿か
 ら目が離せなかった。お約束の黒い帽子
 に無地のケープ、そしてショートパンツ
 かと思いきやケープと同じ無地の生地に
 端には黒いレースがついてあるひらひら
 としたミニスカートで、膝より上までの
 暗めな藍色のソックスをはいている。ス
 カートからはは普段みることが出来ない
 白い太腿がみえている。その黒い服装に
 沖田の色白の肌はとても映えていた。

 とりあえず、玄関の中にはいれてくれた
 のだがそれ以降微動だにしない銀八を不
 思議そうな表情をしてみていた沖田はそ
 の格好からは想像もつかない口調でもう
一度話し掛けた。

 「せんせーい?何ぼけっとしてんでさ。
 さっさとお菓子よこしやがれィ」
 「なに?どうしたの?なんで沖田くん、
 俺んとこ来たの?いや、嬉しいけどね。
 嬉しいけど…え?」

 なにやらブツブツと話し出した銀八に沖
 田ははぁ、と呆れたような溜め息を吐く
 と、ぐいっと背伸びをしながら銀八に顔
 を近付けた。

 「今日はハロウィンですぜ、先生?お菓
 子くれねえんなら悪戯しやすよ」

 まだ幼さを残している丸い輪郭に大きく
 真ん丸い蘇芳色の瞳にほんのり桃色の頬
 。そして、早くお菓子をくれない銀八に
 対してなのかその形のよい唇をまるで子
 供のように尖らせている。銀八はその唇
 にかぶりつきたい、という衝動に駆られ
 てしまった。頭で考える前に身体が動い
 ていて片手で沖田の肩を引き寄せてもう
 片方の手はするすると腰へと伸ばす。そ
 して、沖田のきょとんとした顔にある薄
 く開いている唇に自分の唇を押し当てよ
 うとした、そのとき。

 沖田の背後から唇と唇の間に腕が伸びて
 きてそれは、沖田の口元に置かれた。沖
 田の頭の上をみれば黒髪の目つきの悪い
 男が銀八を瞳孔の開いた瞳で睨み付けて
 いた。すると、沖田が口元をおさえられ
 ている為か少しくぐもったような声でそ
 の男の名を呟いた。

 「……土方さん」
 「…あれぇ?多串くんも居たんだー。つ
 うか、不法侵入なんですけど」
 「…てめェ、いまなにしようとした?」
 「なにって見ててわかんなかった?」
 「ああ、わかったぜ。ついでにてめーを
 消さなきゃいけないってこともな」

 まさに火花が散っていそうな睨み合いが
 始まった。銀八は顔は離したものの沖田
 から手を離そうとしない。土方の方も沖
 田の頭を自分の胸に抱き寄せたまま離そ
 うとしない。その為、沖田は何ともおか
 しな体制になっていて壮絶な睨み合いの
 中切開ハロウィンなのに、と沖田は段々
 と怒りが込み上げてきて小さく低く如何
 にも不機嫌そうに呟いた。

 「つーか、離してほしいんだけど」

 その呟きを耳にしたふたりの馬鹿な男は
 沖田の体制に気付きすぐに離れた。する
 と、沖田はくるりと振り返って土方の方
 を向いた。

 「邪魔すんじゃねえや、阿呆土方。」
 「なっ…!」
 「だいたい、ついてこなくていいっつっ
 たのについてきやがって」
 「っお前な、俺が助けなかったらアイツ
 にキスされてたんだぞ!」
 「だから?」
 「だから?ってお前…はぁ…」

 沖田のあまりにも警戒心というものがな
 い様子に土方は深く溜め息をついた。

 「はいはい、痴話喧嘩は余所でやってく
 ださいねー」

 ふたりのやり取りをみていた銀八が呆れ
 たようにそう言うと沖田くん、と"痴話
 喧嘩"という言葉に反応して、いまにも
 言い返してきそうな沖田の名を呼んだ。
 すると、沖田は再び銀八の方を振り向く
 と同時に銀八は沖田の手を掴んで開かせ
 ると綺麗にラッピングされてある袋をそ
 こに置いた。

 「おら、お菓子。いたずらされちゃ困る
 からな。」

 それは、いつの間に持ってきたのかお菓
 子だった。何故こんなに綺麗にラッピン
 グされているのが銀八の家にあるのかは
 定かではないが、にやりと口角を吊り上
 げ"沖田くんにならいたずらされてもい
 いかもしんないけど"とちらりと挑戦的
 な瞳で土方をみる銀八に沖田はこの甘党
 の他人には絶対に甘いものをあげない男
 が自分にお菓子をくれるだなんて思って
 もいなかったみたいで多少驚いていたよ
 うだったが、にこりとまさに小悪魔な笑
 みを浮かべて"ありがとうございまさぁ
 、せんせ"と言ってはつま先立ちになっ
 て銀八の頬に唇を寄せて軽く触れるとす
 ぐに離れた。

 「てめっ、総悟!!」
 「ほいじゃ、先生。また学校で」

 沖田はそう言い残すとギャーギャーと騒
 いでいる土方を無理やり押して銀八の家
 から出た。

 銀八の家は二階建てのアパートで二階の
 一番奥である。沖田は上機嫌のようで楽
 しげな歩みでスキップするように駆け足
 で土方より前に出た。土方は未だに先ほ
 どの沖田の行為が気に入らないみたいで
 沖田とは真逆に不機嫌そうに歩いている
 。

 階段を降りたところで沖田は先ほど自分
 が頬に口付けた後の銀八の様子を思い出
 してくすくすと笑いを漏らした。

 「土方さん、さっき俺が銀八の頬にちゅ
 ーした後の反応みやした?あのアホ面。
 面白いったらありゃしねえ」

 その言葉と未だに笑いが止まらないよう
 でくすくすと笑い続ける沖田に土方の苛 々がピークに達したようでぴたりと足を
 止めた。いきなり足を止めた土方に沖田
 も足を止め笑いを止めて振り返り不思議
 そうな表情をして近付いていき土方の顔
 を下から覗き込むといつもと変わらない
 口調で話しかけた。

 「どーかしたんですかィ、ひじか、」

 土方さん、と言おうとした途端、グイッ
 と腕を掴まれた。クラスのみんなからも
 らったお菓子をいれていた袋が嫌な音を
 立てて地面に落ちる。掴まれた腕をばっ
 とみては驚いた表情で土方を見上げると
 いきなり顎を持ち上げられたかと思えば
 生温いものが沖田の唇に当てられた。そ
 れが、土方の唇だというのに気付くには
 数秒かかった。

 「っん…!?」

 沖田は何故いきなり口付けられたのか理
 由が全くわからず、ただ茫然としていた
 。
 だが、土方が僅かに開いていた沖田の唇
 から舌を入り込ませた。ぴくんと沖田の
 肩が揺れる。条件反射なのか、土方から
 離れるために手を動かそうとするが片手
 が動かなくて潔く腕を拘束されているこ
 とを思い出す。もう片方の手は開いてい
 るが、片手で土方に勝つことなど出来る
 わけがない。そうこうしている間に土方
 の舌は沖田の逃げ回る舌を巧みに絡めと
 り歯列の裏側をなぞったりと動き回って
 いる。

 「ふあ、んっぁ…ふ…ぅ、っんあ」

 沖田は眉を寄せてきつく目を閉じており
 、それを土方はじっと見据える。がくが
 くと膝が揺れて沖田の身体の力が徐々に
 抜けていったのがわかれば土方は潔く唇
 を離した。ふたりの舌の間には銀の糸が
 伝って、ぷつりと切れた。その途端、が
 くっと沖田が土方にもたれかかった。熱
 い吐息を苦しげに何度も吐き続ける沖田
 の耳元に土方は唇を寄せて低く囁いた。

 「…他の奴にキスなんかすんなよ」

 土方のその言葉に沖田は一瞬目をまるく
 するがすぐにぷっ、と吹き出した。

 「な、何笑ってんだっ」
 「だっ、て…土方さんあんた…銀八にや
 きもち妬いてんでしょう?」

 土方の胸にもたれかかったままくすくす
 と笑う沖田に土方は顔を赤くして恥ずか
 しそうに怒鳴った。

 「妬いてねぇよ!」
 「銀八になんか妬いてんじゃね…んっ」

 沖田が言い切る前に両手で沖田の顔を包
 み込み無理矢理口付けた──。













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