そこまでこだわってるわけじゃないし祝
 ってほしいわけでもプレゼントがほしい
 わけでもない。でも、恋人と一緒に居た
 いと思うくらい普通だろう。

 「最低でさ、アンタ」
 「俺だって行きたくて行くわけじゃねぇ
 よ」

 今日は7月5日。土方さんは明日から出張
 に行く。帰ってくる予定日は7月9日。俺
 の誕生日の次の日。それまで、帰ってこ
 れないらしい。

 「じゃあ、行かなければいいじゃねぇで
 すか」
 「お前なぁ…それができたらこんなこと
 になってねえだろ」

 そんなことわかっている。俺だって出張
 に行ったことくらいあるからそんなこと
 絶対にできないということくらいわかる
 。でも、誕生日になんて文句のひとつ言
 いたくもなるだろう。

 「あーそうですねィ。…じゃあ、さっさ
 と行きやがれ。んで、一生帰ってくんな
 」
 「おい、総悟…!」

 吐き捨てるように言うとその場から逃げ
 るように走って離れた。そのまま、自室
 に転がり込んだ。

 「死ね土方コノヤロー…っ」

 その日は、それから一度も土方さんと話
 さなかった。何回か俺の部屋の前に人の
 気配を(どーせ土方さんだろう)感じたけ
 ど無視した。


 * * *


 「いってらっしゃい、副長!」
 「トシ、気を付けてな」
 「…あぁ」

 玄関から聞き慣れた声が聞こえる。…土
 方さんが今から出発するのだろう。しか
 し、俺が居る場所は自室。

 (見送りなんて誰が行くか…っ)

 そう思っていても、なぜか落ち着かなく
 て。もういっそのこと寝てしまおう、と
 目を閉じたらそれを遮るかのように声が
 聞こえた。

 「沖田さん!土方さん行っちゃいますよ
 」
 「…だから、何」
 「見送んなくていいんですか?」
 「なんで俺が土方コノヤローのことを見
 送んなくちゃならないんでィ」

 そう言うと山崎は諦めたみたいで俺の自
 室から遠ざかっていった。


 * * *


 「…」

 それから2日が経った。俺は公園のベン
 チでいつものようにアイマスクをつけて
 寝転がっていた。すると、アイマスクを
 したままでもわかるくらい暗くなった。

 「何の用ですか、旦那」
 「あ、バレちゃった?」

 アイマスクをずらして前を見ると銀髪が
 目の前で揺れていた。

 「当たり前でしょうが」
 「ちぇっ、ちゅーしようと思ったのに」
 「何がちぇっ、でさァ。いい年した親父
 が」
 「ちょっ、いまの銀さん傷付いたんだけ
 ど!まだ親父じゃないもん!」
 「…」

 ないもん!とかどっかのぶりっこが使い
 そうな言葉を使ってる目の前の親父に哀
 れみの視線をおくってやった。

 「で、何か用ですかィ」
 「いやー、万事屋にいたらガキ2人がう
 るせーから散歩がてらでできたのよ。そ
 したら、このベンチにお姫様もとい沖田
 くんが寝ていたわけです。これは、運命
 だよね!」
 「誰がお姫様でィ。それに運命じゃねぇ
 し、偶然だし」

 寝たまま話すのもなんだから旦那と2人
 隣り合わせでベンチに座った。そして、
 再び最初と同じ質問をしたが、帰ってき
 た答えは答えになっていない。

 「だから、あんな糞マヨラーじゃなくて
 俺のとこおいでよ」

 いきなり内容はどうであれ、あの人の話
 題をされて思わず動揺してしまった。バ
 レないようにすぐに誤魔化そうと笑って
 言う。

 「な、んであの人の名前が出てくるんで
 すか」

 しかし、どうしてわかるのだろうか。旦
 那は。

 「…アイツとなんかあっただろ?」

 ほぼ確信をもってるような顔でニヤリと
 笑って言ってくる。そして、追い討ちを
 かけるように言葉を付け足した。

 「喧嘩、とか」
 「…、旦那にゃかなわねぇや」

 しょうがなく、全て話すことにした。
 「…ってワケなんでさァ」

 話し終えて、旦那の方をを見ると何かに
 納得したような顔をしている。

 不思議に思ってまた口を開こうとしたら
 旦那がぼそりと何か言った。

 「なるほどな」
 「へ?」
 「んー、なんでもねぇ、こっちの話。…
 ま、それは心配しなくて大丈夫だと思う
 ぜ」
 「なっ、心配なんかっ」

 思わず立ち上がって顔を赤くして言った
 らくすりと笑われて手首を引っ張られた
 。唇にふにゅりと何か暖かいものが当た
 ってすぐに離れる。それがなんだか一瞬
 でわかって口をおさえた。

 「──…っ」
 「話聞いてあげたお代ってことで」

 ニヤッと笑うと一言だけ残して立ち去っ
 た。

 「多串くんには言わないでね。俺殺され
 ちゃうから」


 * * *


 帰り道、短冊を笹につけている子供が目
 に入った。そういえば、今日七夕かと思
 い出す。子供の頃は、大はしゃぎして短
 冊に願い事を書いていたが今にではそん
 なことしていない。

 「……、」

 いつもだったらこのくらいに迎えがくる
 。もちろん、小うるさいあの副長さんの
 。こんなこと考えている自分に腹がたっ
 てぐしゃりと足元にあった缶を踏み潰し
 た。


 * * *


 次の日の朝、いつものように顔洗って歯
 を磨いていたのだが屯所内がおかしい。
 いまここに来るまで誰とも会っていない
 。というか、誰もいない。屯所が静まり
 返っている。

 「なんなんでィ…」

 一人呟いてみるが、それは虚しく響くだ
 け。切開の誕生日なのに何故こんな思い
 をしなくてはならないのだろうか。

 だから、誕生日は嫌いなんだ。

 そう思いながら、大広間の障子をひらく
 。すると、パァアンッとクラッカーの音
 が耳に響いた。訳が分からなくて茫然と
 していると思いもしない言葉がきこえた
 。

 「誕生日おめでとうございます!」
 「…え」

 みると、近藤さんや山崎、隊士たち、そ
 して何故か万事屋がいた。テーブルの上
 には高かったであろう、大きなケーキが
 置いてある。

 俺が混乱していると山崎がでてきて腕を
 引っ張りながら、

 「さあ、沖田さんはここですよ」

 とケーキの真ん前に座らされた。

 「こ、近藤さん、これ…」
 「今日はお前の誕生日だろう。おめでと
 う、総悟」

 満面の笑みで言ってきた近藤さんをみて
 思わず泣きそうになる。

 「沖田くん、誕生日おめっとさん」
 「誕生日おめでとうございます!沖田さ
 ん」
 「わ、私はケーキ食べにきただけアル!
 ま、しょうがないから言ってやるけどナ
 !…おめでとうヨ」
 「沖田さん、お誕生日おめでとうござい
 ます!」

 隣にいる山崎もまるで自分が誕生日かの
 ように嬉しそうに言った。
 すくっといきなり山崎が立ち上がった
 。
 そして、障子の方へと向かった。

 「沖田さん、俺らからの誕生日プレゼン
 トです」

 そう言って、障子をひらいた。

 「!!」

 そこに立っていた人物をみて思わず、ば
 っと立ち上がってしまった。

 「な、んで」
 「死ぬ気で仕事終わらせてきたんだよな
 ー、多串くん」
 「っうるせーよ」
 「旦那っ…知ってたんで?」
 「…だから言っただろ、心配しなくて大
 丈夫だって」

 旦那の方を向くといつもと変わらない表
 情で。

 「……誕生日おめでとう…総悟」

 不器用な口調で言ってきた土方さんをみ
 て思わず吹き出してしまった。それをみ
 た土方さんが何か口を開こうとしたから
 、みんな居る前で抱き付いてやった。

 「帰ってくんなっつったじゃねぇですか
 、土方さん」




 「おかえり」

 小さく囁いた。










 僕の最高のプレゼントは君!


















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