あたたかな春の日差しにクラスのほとんどが授業も聞かずに眠
 気とたたかっている──いや、既に眠っているのだろうか。

 土方もその中のひとりだが、眠気とは違うものと先程からたた
 かっていた。理性、という最強で最悪な敵と。

 その元凶は隣の席ですやすやと気持ちよさそうに眠っている亜
 麻色だ。
 いつも眠る際には必ずつけているあの不気味なアイマスクが今
 日は何処にも見当たらない。
 なので、あの天使のような寝顔が目の前に見えるのだ。

 そんなわけで、土方は理性とたたかいながらもその亜麻色に見
 とれていた。すると、ペタペタと安っぽい音を立てながら銀髪
のペロキャン(と自分
 では言い張っている)をくわえた男が亜麻色──沖田の前に近
 付いて話し掛け起こそうとした。

 「沖田くーん」

 だが、沖田はぴくりと動いただけで起きない。すると、銀髪の
 男──銀八が沖田の顔を覗き込みながら、

 「沖田くん?起きないとちゅーしちゃう
 よ?」

 そう言った。

 「なッ!」

 ガタリ、と音を立てて立ち上がったのは隣の土方だ。ついでに
 銀八の言葉に反応して声を上げたのも土方だ。

 「どうかした?多串くん」
 「てめェっ、」

 ニヤリと笑いながら此方を向いてくる銀八に土方はすぐに言い
 返そうとしたが、其れは目を擦りながら顔をあげた寝起きの沖
 田によって中断された。

 「…なんでィ…うるせェな…」
 「っ、総悟」

 土方が沖田の方を向くと沖田は首を傾げながら言った。

 「なんでアンタひとりで突っ立ってるんです?とうとう、味覚
 だけじゃなくアタマまでおかしくなっちまいやしたか?」
 「……」

 銀八は可愛い仕草とは裏腹にペラペラといつものように話し出
 す沖田にガックリと肩を落とす土方を横目で見ると沖田くん、
 と自分のほうに興味をうつさせた。

 「あ、先生。授業終わったんですかィ?」
 「まだ思いっきり授業の最中だ」

 にっこりと笑いながら言うと、沖田はあらら、と残念そうに言
 った。

 「ということで、沖田くんは放課後、保健室にくるように」
 「いや、おかしいだろーが」

 銀八の発言にいち早くツッこんだのはやはり土方だ。

 「普通、国語準備室だろ」
 「何?ドコに呼び出そうが俺の勝手じゃん。あ、でも、国語準
 備室でもいいかもな…」
 「なに言ってやがるッ、この野郎ッ」

 最後にぼそりと呟かれた言葉に土方は今にも殴りかかりそうな
 勢いで叫んだすると、いままで黙っていたクラスの人も騒ぎ出
 してきた。

 「貴様ァア!抜け駆けは許さんッ」
 「先生!授業もろくにしてないクセに何しようとしてるんです
 か!」
 「サドはお前のモンじゃねーヨ!」
 「私以外の人となんて絶対に許さないわ!ちなみに私は先生の
 も…」
 「先生?いくら可愛いからって生徒に手ェ出すんですか?」
 「お前みたいなのに総悟はやらん!」
 「あら?ゴリラが紛れ込んているわ。追い出さないと」
 「お、お妙さ…ぐふぅッ!!」

 というふうに抗議の声やら銀八の声やらなにやらいろんなもの
 でいつも騒がしい教室が一段と騒がしくなった。

 一方、話の中心の人物、沖田は未だ眠いらしく目を擦ったり欠
 伸したりしている。

 そして、ぼそり呟いた。

 「うるさい……」

 すると、ピタリ騒ぎが止まった。

 「ほら、てめーらがギャーギャー騒ぐから」

 銀八がそう言うと再び抗議の声があがろうとしたそのとき、授
 業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 「あ。ま、つーことで沖田くんは保健室にきてね」
 「へーい…」

 沖田は何も気にした様子は無くいつもの無表情で答えた。


 * * *


 「せんせー?」

 律儀なことに沖田は放課後、ちゃんと保健室にきていた。どう
 やら保健の先生はいないようだ。

 沖田は入り口のドアから何度も銀八のことを呼ぶが応答はない。

 「ったく…向こうから呼んでおいてなんなんでィ…」

 はあ、と溜め息をつくとベッドに近づいてカーテンを開けた。
 どーせだから寝ていこうと布団を捲るとそこには片目を隠した
 紫色の髪の男が此方を見ていた。

 「っ…高杉…!」
 「よォ…沖田」

 この男は苦手だ。
 学校一の不良で気まぐれで学校にも来ている。だが、来たとし
 ても屋上にいるか、このように保健室でサボっている。一応、
 3Zの生徒だ。高杉は何を考えてるのか全くわからない。前に
 沖田は高杉に襲われかけた。それで、沖田はこの男には近付か
 ないようにしていたのだが。

 「、」

 沖田は逃げようとしたが、腕を掴まれて、挙げ句の果てにはベ
 ッドに引っ張られ押し倒されてしまった。

 「何しやがるっ」
 「あーあ、せっかく気持ち良く寝てたってのに…。責任、とれ
 や」
 「誰が…っ」

 そう言って殴ろうとする沖田に高杉は、ニヤリと不気味な笑み
 を零すと片手で沖田の両手首を掴み、頭の上で留めた。

 「ちょっ、離せィ!」
 「……」

 暴れている沖田に構わず高杉は手首を掴んでいる方とは反対の
 手で器用に沖田のTシャツを捲りあげて露わになった胸の飾り
 をペロリと舐めた。

 「ん…あっ」
 「ククッ…可愛い声出すじゃねえか…」
 「っ死ね」

 沖田は真っ赤になって、離せやめろと再び思い切り暴れだした
 。その様子に高杉は小さく舌打ちして、

 「ちょっと、黙ってろ」

 と未だに喚き続けている沖田の形の良い唇に自分のを重ねよう
 とした瞬間。

 「遅れてごめんねー沖田く…」
 「!」
 「チッ…」

 沖田を保健室に呼び出した本人が現れた。

 「ってめ!何してやがるっ」

 近付いていこうとすると高杉は諦めたのか沖田の上から退いた
 。

 「じゃあな、沖田ァ。続きはまた今度しようや」

 そう言って、ニヤリと銀八の方に笑みを向けると保健室から出
 て行った。

 「大丈夫!?沖田くんっ」

 すぐさま、ベッドの上で俯いている沖田に近付いた。

 「…せんせぇ…っ」

 すると、緊張がほどけたのか涙目で泣きそうな顔をしながら銀
 八を見上げた。

 「っ…!」

 その様子に襲い掛かりたい衝動に駆られるが必死に抑えて優し
 く頭を撫でた。

 「、大丈夫か?」

 銀八が声をかけると沖田は銀八の首に手をまわして膝立ちにな
 って抱き付いた。

 「ちょっ、沖田くん?」
 「………」
 「どうしたの?」

 話しかけても沖田は黙ったままで喋らないし動かない。

 「あの、沖田くん?このままだとヤバいんだけど…その、いろ
 いろと…」
 「……せんせい」
 「、何?」

 銀八の放った言葉は当然のようにスルーしてやっと喋ったかと
 思ったら

 「用事あるんで帰っていいですかィ?」

 などと言った。

 「へ………」
 「…だめ?」

 沖田がわざとらしく銀八の耳元で囁くと銀八は少しの間黙った
 末、こう言った。

 「…しょうがねェな」
 「やった」
 「但し、先生と一発、」
 「そいじゃ、また明日」



 ばいばーい、せんせーと言って沖田はさっさと保健室から出て
 行った。残された銀八はひとり溜め息をついた。沖田とふたり
 で居られなかったから、ではなく諦め、の。


 * * *


 沖田が校門に行くとひとりの男がいた。

 「……遅い。どんだけ待たせる気だ」
 「…別に待ってくれなんて頼んでやせん」
 「…ああそうかよ。でも、」
 「?」
 「その割には嬉しそうな顔してんじゃねえの」
 「っ!」

 言われた途端に顔を真っ赤にして目の前の男を思い切り睨みつ
 けた。





 愛してるのは君だけ











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