決行
仮宿である屋敷に着いてからと言うもの、シャルナークはパソコンに噛り付いていた。
今夜盗む女について調べているようだが、中々手こずっているようだ。
「うーん・・・。」
「なに調べてんだよ?」
一人葛藤中のシャルナークにフィンクスが呼び掛ける。
シャルナークはパソコンから目を離さずに、「例の女さ。」と返す。
フィンクスは首を傾げた。
「戸籍も情報もないし、ハンターサイトの情報を頼ってもサーカスでのショー内容しか出てこない。
流星街出身なら俺達も分かってるはずなんだけど・・・。」
「そりゃあ、まあ、奇妙ではあるが、何も流星街じゃなくても戸籍がない奴ぐらいいるだろ。」
「うーん、まあ、そうなんだけどさ・・・。
でも一応まだ調べてみるよ。」
伸びを一つしてから再度画面に向かい合うシャルナークからフィンクスは離れてワタシの近くに腰を下ろす。
拷問書から目を離さずにいると、フィンクスはワタシに話をふっかけた。
「どうだった?」
「・・・なんのことね。」
「いや、お前分かるだろ。
例の女だよ。」
ページを捲れば凄惨な表情を宿したまま拷問器具に掛けられている男が写っており、隣にはその拷問器具の名称と説明が掲載されている。
フィンクスはそれを覗き込んで「エゲツねえな・・・。」と嘯いた。
「気になるんだたら見に行けば良かたね。」
「いや、結果的に今夜決行だろ?
今見に行かなくても別にいいだろ。」
「じゃあ何で聞くね。」
「正直に言おう。
見に行きたくないし、見に行きにくい。
あと、盗りに行く宝が人間の場合間違って殺さねえようにな。」
溜息を吐いて次を捲る。
今度はロープの縛り方についてが書いてあり、横にいるフィンクスがこめかみの筋を浮き上がらせているのは、見ないフリをした。
ここでキレさせるのはまだだ。
少しいびろう。
「美人だたね。」
「ほお、美人か。」
「ナイスバディーだたね。」
「ほおほお、そりゃ良い女だな。」
「嘘ね。」
「なるほど嘘か。
・・・てめえいい加減ふざけんなよ!!」
はは、と笑ってやると殴る体制を取るフィンクスを、遠くでワタシ達のやりとりを見ていたフランクリンが宥めに来た。
ワタシは相も変わらず本を読みながら横目でその様子を見る。
シャルナークが「五月蝿いよ!」と怒り出したのをキッカケに静かになる。
「で、正直な話、どうだったよ。」
「・・・仕方ないね。
遠目から見て推定ワタシより小さい普通の女だたよ。」
「・・・それだけか?」
「・・・髪が胸過ぎた辺りのくせ毛ね。
小動物みたいなやつだたよ。
大体、不死に近かたら死ぬはずないね。」
「あ、確かに。」と手を叩くフィンクスに馬鹿か、と言いたくなったが止めておいた。
色々と面倒臭くなった。
次のページに手を伸ばした瞬間、唐突に今まで言葉を発しなかったシズクが口を開く。
「フェイタンよく覚えてるね。」
1ページだけを捲るはずだった手は止まり、逆に添えていた手の方が何枚もページを飛ばして行く。
「フェイどうした?」という声が聞こえた気がしたが、どうだったか分からない。
取り敢えずワタシは今動揺をしているようだ。
「・・・当たり前ね。
シズクが物覚え悪いからよ。」
「うーん、そうかな?」
「フェイ、ページ数凄いことになってんぞ。」
「なに言てるね。
ここさき読んだよ。」
「フェイタンお前もしかして・・・。」
「部屋戻るね。
時間になたら呼ぶよ。」
本を閉じて立ち上がり、出入り口に向かって歩いてはすぐに扉を閉めた。
自分の靴音だけが響く無駄に長い廊下を、今夜の仕事だけについて考えながら自室を目指す。
あの時、頭を撫でた感触が残る右手を握り締め、只々歩き続けた。
「なあ、まさか・・・。」
「そのまさかだろうな。」
「フェイタンもあんな風になるんだね。
ちょっとびっくり。」
「ふーん、へえ、なるほどねえ。」
「シャル?」
画面を見ていたシャルナークはいつの間にか、顔を上げていて、その顔は怪しく、そして口は弧を描いている。
皆はそんなシャルナークを眺めて首を傾げた。
「それは丁重に応援しなくちゃね・・・。」
そんな会話が繰り広げられていたことなど、この時のワタシは知る由もない。
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