希望


今日、四組目のお客さんの好機を終えた。
一組目の人はいつも私に会いに来る人で、ナイフを持って身体中を刺す事に快楽を持っている人のようで、時間が経てば舌打ちをして出て行く。
二組目は団体で、怖いお兄さん達だった。
偉い人が病に掛かり治らないのだそうで、銃口を私目掛け突き付けては発砲し、急いで治せと脅して来た。
三組目は老夫婦で、私の歌声を間近に聞きたいという要望の元でやって来たそうだ。
四組目は車椅子に乗った少年と両親のようで治療のお願いだった。
私はそれを引き受けて男の子の足を治すと、たちまちに男の子は笑顔になり両足を地に付けて飛び跳ねた。
ありがとう、とお礼を言われて心が暖かくなりどういたしまして、という意味を込めて微笑んだ。
男の子とその両親が帰っていく様を眺めながら、私は声の出ない喉を一撫でして檻へ寄りかかる。
ボロボロの赤を滲ませた白いワンピースがひらりと揺れる。
私が本当の死まで辿り着くまでこの生活をしなければならないのかと思うと気が気でなかった。
心臓を貫かれても、頭を撃たれても、首を落とされても死ななかった私がどうやれば死ねるのか、見当が付くはずもない。
泣き疲れた私はそのまま眠ってしまいそうである。
このまま死ねないか、考えてみるが多分無理だろうと思考を辞める。
もうすぐ5分が経つ。
声の出るようになった喉を摩って、座り方を正した。
今日最後の面接に安心をしたいけれど、何をされるか分からない為怖気ついてばかりだ。
意を決してお客さんが来るのを待つ。
ガチャリ、と扉が開く。
三人の男の人だった。
男の人達は私がいる檻の前までやって来ては、額に包帯を巻いた人が私の目線になるようにしゃがみ込んで微笑んできた。
私はそれに首を傾げる。
初めての対応だったのだ。

「少し、質問していいかな?」

「えっ、と、はい、どうぞ。」

いきなりの会話の始まりに戸惑って、吃音が混じった話し方になってしまった。

「ここに来たのはいつ?」

「約二ヶ月前だと、思います。」

「どうやって来たの?」

「あ、えと、分からないです。
目が覚めたらいつの間にかここにいて・・・。」

「そうか・・・。
じゃあ、その斬られても治るその体はどうなってるの?
不死に近いその体質は?」

痛い所を疲れた。
それは私が今までずっと考えていたことの一つだからだ。
私は顔が下へ無意識に落ちた。

「これ、は、すいません、私にも、分からなくて。
いつも、考えているんですが・・・。」

「なら歌は?
どうして怪我や病気が治るのかな?」

「それも、分かりません。
質問に、答えられなくてすいません・・・。」

私がそう言うとその男の人は「なるほど。」と一人呟いて、ちらりと後ろにいる二人を見やってから私へと向き直った。
私も急いで目を見る。

「じゃあ、最後の質問。
ここにいて辛い?」

唐突に目の前が潤んで、頬を濡らした。
この男の人のように、私にそのような事を言う人がいなかったのだ。
ぽろぽろと落ちていく涙を拭い、申し訳ない気持ちが滲み出ながらも首を縦に振った。
「よし、決まりだな。」と男の人は立ち上がる。

「今夜盗むぞ。」

「一日置きの仕事か。
まあ、暇潰しにはなるだろうね。」

金髪の男の人が背伸びをしながら言う。
盗む、と仕事とはこの人達は強盗か何かなのだろうと、失礼ながらそう考えてしまった。
未だ泣き止まない私は首にかかるネックレスを握る。
そうするとどこか落ち着くような、安心するような気がした。

「今夜、12時に。」

それだけを言い残して背中を向け、部屋を後にする包帯を巻いた男の人に続くように金髪の男の人が「またね。」と出て行った。
一言も口を開いていない男の人も出て行くのだろうと思って、顔を上げようとした瞬間に私の前へと歩み寄って来た。
びくりと肩を揺らし、体を強張らせながら身構える。
腕を伸ばしてきたので、目を固く瞑って身を寄せると頭に降ってきたのは掌で、数回撫でたかと思えば手を離して立ち去っていった。
驚いて固まる私はそこから一ミリも動けなかった。


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