絶望


私がここに来てから約60日が経った。
あの日、私の面倒を見ると言ったおじさんは私と、私の歌を利用しようとしていた人だったらしく、サーカスがある日は観客の前で酷い事を平気でされた。
鞭で叩かれたり、靴を履いた足で蹴られたり、一番肉体的、精神的に堪えたのは腕や足を刀で斬られた事だった。
斬られて肉断面が見える中で何度も叫びを上げて喚く。
でも、それでも私の体は数秒と経
たずに元に戻っていった。
それを体験する度に私は普通の人とは掛け離れていっているようで涙が溢れた。
私は一体どうしてしまったんだろう。
これからどうなってしまうんだろう。
今日もサーカスを終えた頃におじさんは私を檻に閉じ込める。
その鍵を掛けられた檻の中で、何もならない事は分かっている筈なのに嗚咽を漏らし続けた。
おじさんは悪くない、全部私が普通ではないから悪いのだと自分に言い聞かせては雫が重力に従って落ちていった。
「お前は悪くない。大丈夫だ安心しろ。」と最近何処かで聞こえる声を糧にもう少しだけ頑張ってみようと思う。
でも、疲れた、少しだけ眠ろう。
私は瞼が重い理由に気付かずにゆっくりと意識を手放した。


暗い、でも暖かいそこに私はいた。
居心地が良い。
離れたくない気持ちを抑えながら、私は下へ下へと降りて行く。
どこか懐かしい感覚に心を踊らせた。
私はこの場所を知っている気がする。
どんどん下へ降りていき、すっかりそこは明るくなっていった。
不意に、後ろを振り返る。
階段も何もなかったその場所に、一人、女の子が見えた。
私と同じ容姿をした女の子だ。
女の子は薄く笑って駆け足で私へと近付いて来る。
やがてお互いの距離が無くなった頃、女の子は私を抱き締めてこう言った。

「私が、必ず助けるから。」

そこで肩を押され下へと投げ出された。
待って。
私は貴女を知っている気がするの。
貴女もどうか一緒に。
手を伸ばしても届かない貴女との距離はどうしようもなく切なかった。


ばん!っとした音で目が覚めた。
おじさんが私が入っている檻を叩いたのだ。
いつもの起こされ方に心臓がなる。
焦りが出て来てはおじさんの機嫌を損ねないように普段通りに振る舞った。

「いつもの接客タイムの時間だぞ。
客の言う依頼にしっかりと応えとけ。」

サーカスが終わってから、おじさんはよくお客さんと私を会わせている。
私の歌には治癒の力があるようで、軽い怪我から一生治らないとされた怪我、病気までをサーカスの観覧とは別にお金を貰って商売をしている、というのをサーカスの団員さん達が話しているのを聞いた。
私は反抗をする立場でもない、寧ろ快くここにおいて貰っている身の上であるからおじさんの言う通りにするしか他がない。
サーカスの白いワンピース調の服の裾を握り締めながら笑って返事をした。

「今日は五組だ。
しっかり働けよ。」

そう言っておじさんは席を外した。
私は再度涙を地へ落とす。


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