歓迎



私が話し終わってからの行動は素早かった。
ウボォーさんやノブナガさん達は酒だ、歓迎だと叫び、誰が酒を盗ってくるかで盛り上がっていた。
マチさんは呆れて、パクノダさんはどこか楽しそうに微笑んでいる。
私が呆然とその光景を眺めていると、シズクさんが歩み寄って来た。
それをまた惚けて見る。

「大丈夫?」

「え、あ、大丈夫です。」

手を差し出されて来て驚いて、少しのズレを発生させながら慌てて掴む。
それが妙に恥ずかしくて顔が熱くなった。
悟られないように自分の手で頬を覆ってみる。
あまり変化はないと思うけれど。

「あの、皆さんなにしてらっしゃるんですか?」

「リンの歓迎会。
でもお酒が飲みたいだけだと思うけど。」

盛り上がっている方を見れば何やらじゃんけんをしているようで、勝った人から抜けていくようだ。
その度に「うおっしゃあああ!」と雄叫びを上げて拳を上に掲げている。
普通の人達とあまり変わらないと一人、笑みを零す。
すると唐突にシズクさんが後ろを向いた。
なんだろうと私もつられて振り返ろうとした瞬間にパンッ!と大きな音がして、意識が落ちる。

「な、っんだよいきなり呼びやがって!!」

振り返った先には団長とか言う危険人物の姿が近くにあった。
周りの奴らは私に慣れたのか、気に留めずに続きをしていた。
順応性が高い奴らめ。
ふんっ、と団長を見上げれば無表情で返された。
リンから私へ代わる時の条件を、この男が増やしたのだ。
両手を思い切り叩けばチェンジのサイン。
私は不機嫌丸出しで応答を待った。

「聞きたい事がある。」

「なんだよ。」

「何故あのとき代わらなかった。」

団長の質問に暫し考える。
あの時とはどの時だと。
先程のリンの打ち明けを思い浮かべる。
あいつはまず自分の素性を明かし、次にいきなり、唐突と言っていいぐらいに自分を殺せと強要した。
それで、ウボォーとか言う男に頭を鷲掴まれて・・・。

「あぁ、殺された時な。」

その時は鮮明に覚えている。
まだ心の準備もままなっていなかった時に殺されたやつだ。
確かに痛みはないに等しかったが、なにかと心が折れたあの殺され方は二度と体験したくない。
引きつった笑みが生まれた。

「あれは、リンが直接私に唱えてきたんだよ。
「あなたは出てこないで」ってな。」

「あれ、ランの存在は知らないんじゃなかったの?」

シズクの問は的を得ていると思う。
私は初めこいつらにリンは私の事は知らないと言っていたから。

「確かに私の存在は知らないぜ。
でも、あいつ気付きやがった。
生まれてから一度もバレずにいたものがこの短期間にだぜ?
信じられねえよ。」

「だが、まだ曖昧なんだろ?」

「でも、確かにリンじゃない別の何かが自分の中にいる事は確信付けてるぜ。
全く侮れねえやつ。」

私が一人愚痴ると団長は手を顎に持って来ては「面白い。」と笑う。
なにも面白くねえよと悪態つけながらまたリンへと切り替える為に、私は眠りに落ちた。


・・・・・・・・・


「あれ、私・・・。」

目を開けるとシズクさんの腕の中にいて、慌てて後退する。
何がどうしてこうなったのか疑問に思うまでもなく、いつの間に近くまで来ていたのか団長さんが静かに笑っていた。
シズクさんは多少驚いた顔をして私を見ている。

「起きる時間早くなってる・・・。」

呟かれた言葉は誰に指したものでもないらしい。
まさか、と自分の胸に手を置く。
私の中の誰かが出て来たのだろうか。
もしそうだとしたら、私はまた気付けなかった。
一つ、首が項垂れる。

「あの、もしかして・・・。」

「いや、只の貧血だろう。」

「え、回復が早くても貧血になるんでしょうか?」

依然と笑みを含んでいる団長さんは明らかに何かを隠しているようで、腑に落ちない。
私はまだ知らない方がいいということなのだろうか。
うんと悩んでいても仕方がないのだろうか。
悶々と疑問を解消すべく考えるが、今何をやっても解決しそうにない。
諦めて思考を辞める。

「あ、そう言えばお酒を飲まれるんですよね?
おつまみとか作った方がいいんでしょうか。」

どうやら盗んでくる人が決まったようで、不満を言うでもなく、気分を高らかにして外へと出て行く。
そう言えば私が作りに作った料理の数々はどうなったのだろう。
腐食していなければおつまみの代わりになるだろうか。
そもそもおつまみに出来る料理を作っただろうか。
いや、確かそういうものは作ってなかったような。

「まだ作るの?」

「作らなくていいですかね?」

「あの馬鹿共はバカ食いバカ飲みするから大丈夫ね。
全然足りるよ。」

「そうですかね・・・。
って、え!!?」

一つ増えた声。
振り向くとフェイタンさんがいて驚く。
無駄に鳴り響く心臓。
この人達は背後を取るのが好きなのだろうか。
静まらない鼓動の上に手を置いて、落ち着けと呪文のように唱え続ける。
これは、心臓に悪い。

「びっ、びっくりしました・・・。」

「当たり前の反応だろうな。」

動きが固まって、フェイタンさんを見ながら、ここでやっていけるかどうかが不安になって来た。
平和で育って来た私とその逆を生き抜いて来た人達。
中々稀に見ない組み合わせはどう影響を施すのだろうか。
足を引っ張らないようにしなくては、と試行錯誤を繰り返したのと同時に片頬を摘ままれる。
そしてその張本人のフェイタンさんに「のろま。」と言われながら頬を引っ張られた。
私はまだまだ彼らに成すがままのようです。




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