覚悟




「は?」

「いえ、ごめんなさい!
でも私本気なんです!
あ、殺してくださいと言っても、私はこんな風な体なんですよって事をですね!!」

明らかに変な誤解を撒いてしまったのではないだろうか。
しかしちゃんと私を殺してください発言の前に、私を知ってもらいたいと言ったのだから間違いではないハズ。
でも何だろうか。
この空間に張り付いた変な空気は・・・。
語弊があったとでもいうのだろうか。
いや、振り返ってみてもそんなものはないと信じたい。
一人の男性が口元を隠しながら静かに大笑いをしているのには見ないフリをしようと視線を団長さんへと戻す。

「旅団の人達の中で私の再生力?を見たのは三人だけじゃないですか!
ですからそこは皆さんにも知っていてもらいたいというか、なんというか・・・。」

必死の弁論。
最後になるにつれ小さくなる声に、段々自信がつかなくなってきた。
折角の覚悟が水の泡になる。
一日の時間を私は何をしていたのだろうか、少し自分の阿保さ加減を更生したい。

「本人がそう言てるんだたら殺せばいいね。」

「あれ?
いいの殺しても?」

「何故ワタシに聞くね。」

「いいんです!
まだ試された事のない殺し方ありますし、それに私・・・多分死ぬ事が出来ませんし・・・。」

サーカスでの記憶が蘇る。
それはどうしようもなく、思い出したくもない過去の凄惨。
分からない事が山程もある私に秘められた能力。
謎は山積みだ。
それをどのように、幾日も掛けて解決するのかはまだ分からない。
兎に角、私には信用を得られなければならない。
一人では、一歩でも前に進めないから。

「よし。
なら一度殺してみよう。
誰が良いとか指名はあるか?」

団長さんのセリフに顔を上げる。
辺りを見回すけれど、まだ誰がどのようにどんな能力と殺害をするのかよく分からない。
今までで会った人を思い浮かべる。
そしてそれを単純に決めた。

「じゃあ、ウボォーさんでお願いします。」

「ん?俺でいいのか?」

「はい。
一番力強そうですから。」

独断と偏見のみの決め方。
周りは何も言わない辺り、間違ってはいないようだ。
私がウボォーさんを指名すると、私の目の前まで歩み寄る。
抱え上げられた時も思ったけれど、大きい。
ずっと見上げていたら首が痛くなりそうなぐらい大きい。
そう思いつつも私はウボォーさんの目を見る。

「あの、要望があるんですが、いいですか?」

「いいぜ。
応えられるだけ応えてやるよ。」

「ありがとうございます。
では、私の頭をこう、握り潰せたり出来ますか?
それとあまり痛くないように一瞬で殺してほしいというか・・・。」

我ながらこの人生で凄いお願いを人に言っていると思う。
端から見れば私が変人のようだろう。
私だって自分に思う。
思わざるを得ない会話だ。
状況は一見シリアスじみているのに。
何故私はこんなに直球勝負なのだろうとこの時改めて実感した。

「痛くないようには分からねえな。
けど一瞬で殺ってやるよ。」

ウボォーさんがそう言ってくれて、お礼を言おうとした瞬間に頭を片手で握られる。
殺される準備がまだ少し足りないんですが。
それも言えずにあっさりと、あっという間に視界も意識も無くなった。


・・・・・・・・・


目を覚ました時、まず最初に頭がぼんやりとした。
そしてその次は着ている制服がヤケに濡れていて、あまり気分の良いものではないという感覚があった。
起き上がる為に床に手を付いた。
ウボォーさんに殺される前に見た場所と同じという事と、周りに旅団の皆さんと目の前に私を殺してくれたウボォーさんの姿があり、目を丸くした姿がそこにはあった。
私は顔を無意識で触る。
いつもと変わりのない質感がある当たり前を知る。

「し、死なないみたいですね!」

「いや、それよりもなんだその復活は!!」

「頭潰されても生き返るのかよ・・・。」

無理矢理に笑顔を作って、私を見てもらった皆さんに死なない事を証明した。
やはり驚くのは当然のようだ。
私だって死なない事は分かってはいたが、信じられなくて驚いた。

「あ、あまり痛くなかったですよ!」

「どうでもいい・・・。」

「私やっぱり貴重な体験してますよね!」

「ポジティブだなおい!」

ことごとく一般的な応えを返される。
そして皆さんに見てもらったものの、次はどうするかあまり考えていなかった。
そしてこんなにも微妙な雰囲気に包まれるとは思ってもみなかった。
どうしようと考えている内に、団長さんが言葉を発した。
皆さんがそれに注目する。

「回復までの時間は1分もかからないな。」

「え?そうだったんですか?」

「では念での歌はどうなるか。
試してみるか?」

「え、ああ、分かりました!」

団長さんに言われてふと思い出す自分の能力。
あの歌にも随分と長所と短所があるのも分かっている。
未だに、念を使っている自覚がないのにも関わらず、効力があるのは随分変な感じがするものだ。

「団長さんと、シャルさん、フェイタンさんはご存知かもしれませんが、歌った後、ある一定時間私は声が出せません。
歌う時間と、歌い終わってから声を出せるまでの時間は比例しているみたいです。」

「それも想定内だ。」

つくづく頭の良い人は凄いなと感心する。
絶対、テストを受けさせてみても容易に100点とか採れるんだろうなと場違いな事を考える辺り、私はやっぱり平和主義者なのだと改めて思った。

「それと、歌はなんでもいいらしいです。
どんな歌がいいですか?」

「そうなのか。
いや、正直そこはなんでもいい。」

「リクエストがあれば歌いやすいんですが・・・。」

「短いのは歌えるのか?」

「はい。
少し、時間をください。」

指示してくれた短い歌を、思い浮かべる。
1分30秒ぐらいの歌が確かあったはずだ。
兄がよく観るアニメも思い返すけれど、あまりに幻影旅団という盗賊に合わない雰囲気で辞めた。
呼吸を整わせる。
未だに、人前で歌う事に羞恥を覚えるから厄介だと自分に不満を言う。
大丈夫だと繰り返しながら、曲を脳内に流した。
不思議と外から聞こえるようで、周りは一気に気にならなくなる。
私は曲に合わせて口を開いた。
存在が高まる歌に、皆さんは口を開く事なく只黙って聴いていてくれた。
私のために。

「・・・。」

歌い終わって、顔を上げる。
やはり声は出なかった。
少し不便に思っているのと同時に、皆さんが納得したように言葉に出した。
会話が一気に溢れる。

「これは、間違いなく念だな。」

「回復系なんて滅多にいないよ。
貴重な人材だね。」

「でも念なんてこいつ知らねぇんだろ?
今のだってまだ謎だらけって事じゃねえか。」

「これから解いていくんだ。
問題ない。」

最近知った念について、皆さんが語り合う。
一人取り残されるのが妙に気恥ずかしく感じた。
置いてけぼりにならないように、漸く出せるようになった声を皆さんに伝える。

「あの、これが皆さんに知ってもらいたかった私自身なんですが、えっと・・・。」

上手く言葉が出ない。
途中で切れた私のセリフは虚しく空気中に溶けていった。
なにを話せばいいのか、思考を巡らせようとしては上手くまとめられない。
結局私はなにが言いたかったのだろう。
これが先頭を占めて動けずにいる。
どう切り替えそうと視線が彷徨う。
他人から見れば不思議な空間なのだろうなと、我ながらにそう感じた。

「ま、こう言う奴ね。」

「えっと、あっ、おっ、お願いします!」

フェイタンさんに助け舟を出されて勢いよく頭を下げれば、元々床に座っていた私は頭を打った。
あまりに痛くて涙目になりながら額を摩る。
周りは吹き出しながら私を歓迎してくれたようだった。



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