真実




一人、あの大広間で耳を塞ぎ決意する。
私には知らない真実がある。
それは第三者から見た私の話であり、私自身でもある。
もしも第三者が兄ならば、そしてもしも私の中の知らない誰かなのだとしたら、私の声は聞こえるのだろう。
私が此処に来たのも、私が度々気絶するのも、恐らく"私"が原因なのだとすれば、私は"私"に呼び掛ける事が出来る。
だから、私は"私"にお願いをしなければならない。
これは"私"の問題ではなく、私の問題だから。

「(もしも、もしも私の中に私じゃない誰かがいるんだったら、これから私が皆にするお願いに出て来ないでください。
これは私の自分勝手だから・・・。
あなたを巻き込みたくないから・・・。)」

だから、お願い。
ゆっくりと目を開くと、あの時より多くなった幻影旅団の皆さんの姿があった。
視線は私に突き刺さり、その度に緊張を起こす。
無理にでも笑えない顔を取り敢えず団長さんに向けた。
今は本を持っていない。
それは私の話を本気で聞いてくれる姿勢をとっているのだと自己解釈した後に、再度混乱状態に陥った。
人の話を聞いてくれる事はありがたいことだけれど、それなりの重圧がのしかかって来て、息を吸うのだって困難だ。
何気なしにフェイタンさんを見る。
雑誌に目を通していた。
いつも通りの雰囲気に少しだけ心が和らいだような気がして、深呼吸をそっとする。
私は言葉を紡ぎ始める。

「あの、私が今から話す事は、私が辿り着いた考えであり、答えです。
決して、嘘は言いません。」

先程の試行錯誤していた事を頭に思い浮かべる。
鳴り響く心臓の音と共に兄の姿を思い出し、十字架を握って安静を取り戻す。

「率直に、言います。
私はこの世界の人間じゃありません!」

最後、勢いが付いた言葉に、この場にいた全員が目を見開いたのと同時に、一人が「は?」と低い声を出した。
それに怖気ついてしまった私は仕方ないと心情に慰める、

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいいい!!
でも本当なんです!
この世界の地図を見せてもらっても私が知ってる世界地図とは違いますし、文字だって見たことがないものだったんです!
信じてくださいとは言いませんが、信じてください!」

我ながらに矛盾な事を言ったと涙目になった。
もう駄目だ、耐えられない。
自分のメンタルの低さを痛感しながら両手で顔を隠した。
あ、幾分視線を気にしない。
これでいこうと労った。

「この世界ではないと言うと?」

これは、団長さんの声だろうか。
質問する低い声が聞こえる。

「団長さんが、私の兄は念能力者だと仰ったじゃないですか?
それでもしも兄が物体を移動する事が出来る能力なら、私を私が元居た世界ではない所へ飛ばすのだって難しい事ではないハズ。
あの過保護とも言える兄が私を飛ばしたのなら、それは、自意識過剰かもしれないですが私を守る為なんだと思います。」

一日考えた結論。
それが、今の私の成果だ。
あの日、不可解な兄の言動と、黒い人に刺された私。
兄はこうなる事が分かって私をこの知らない土地へ飛ばしたのだと考えた。
こう考えた方が至極全うであり、いつもの兄のような気がしたからだ。

「なるほど。
だから情報が載ってなかったのか・・・。」

「おいシャル!
こいつの言葉信じるのかよ!?」

「多分本当よ。
嘘を付く事が苦手な子だと思うけど。」

「いや、確実に嘘は付けないよ。
表情でバレるのは検証済み。」

シャルさんの言葉に声が低い人が反論すると、恐らくパクノダさんがそれを否定して更にマチさんも加勢する。
如何に嘘を付くのが下手なのかが、聞いてる自分でも分かるぐらいにハッキリと発言していて、少なからず落ち込んだのは内緒だ。
取り敢えず、少数でも私の話は信じてくれたようだ。
それだけで嬉しい。

「けどよ!」

「五月蝿いよフィン。
話が進まないね。」

「お前まで言うかフェイ!」

素っ気なく、感情のままに交わされる会話に冷や汗が垂れた。
人に信じてもらうのは案外難しい事を改めて知る。

「あの、それでですね、私が別の世界から来たのであれば、あの、えっと、此処に置いてくれないかな、と。」

最後に迷惑じゃなければ、と付け足して私の話は終わり。
もしこれで私が捨てられるのであればどこか住み込みで働ける場所を探さないといけない。
字も読めないのにどうやって生活しようか、まずこの人達になにもしてあげる事が出来ないと、脳内で考えていればすぐにでも返事が来た。

「俺は少なからずお前に興味があるから盗って来たんだが?
逆にお前が逃げ出そうものなら殺すぐらいだ。」

「ほ、本当ですか!?」

勢いよく顔を覆った両手を外した。
物騒な言葉なんか気にならないぐらいに私はその一言が救いだった。
良かった。
これならこの人達に恩返しも出来るというもの!
そうとなればまずは勉強をしなければならない。
文字に、地形に、世界情勢、それと念能力についても学んでいかなければ迷惑をかけることこの上ない。
兎に角役に立たなければ。

「私、頑張ります!」

色んな意味を含めた思いをこの一言に全てを乗せた。
それが今の私に出来る全てだから。

「あ、それともう一つ。
いや、もう二つですかね。
皆さんに私を知ってもらいたいんです。」

覚悟を決めた痛いこと。
でもこの人達なら痛みなんて気にならない。
それぐらい、私はこの人達が好きなんだ。
まだ会って日もないけれど、それでも好きだ。
だから私はこの人達に私を晒す。
私を受け止めてもらう為に。

「私を、殺してください。」




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