初見
思考を巡らせて答えに辿り着いた時に、不思議な浮遊感が体を包み込んだ。
一体何がどうなっているのか分からないのと同時に、悲鳴が先に喉を通して溢れ出た。
あの日、私が盗まれた時に居た大きな人よりも一回り大きな人に抱えられている事に気付いたのはその人と目が合ってからだった。
野生を感じさせるその人を、私は見た事がなかったから更に気が動転してしまい、助けを呼び続けた。
ふと始めにフェイタンさんが頭を過ってきたのには少なからず意味があるように思うがよく覚えていない。
泣き叫ぶ私と豪快に笑う男性の間にフェイタンさんが割りいって来たのは正直に驚いた。
近くにいるとは気付かなかったからだ。
フェイタンさんは番傘を手にその男性へと向ける。
「いい加減離すよ、ウボォー。」
「おっ!なんだフェイタンの女か!」
「・・・違うね。」
なにやら話しているように聞こえるけれど、こんがらがっている私は上手く話の内容が頭に入ってこない。
取り敢えずお仲間なのだろうと、依然として私を抱え続ける男性に問おうと口を開いた。
「あの、え、ここの人なんですか?」
「おう!
俺は正真正銘の幻影旅団、クモの一人だぜ!」
「幻影旅団?クモ?」
またもや聞き慣れない言葉が出て来た。
そう言えばこの人達は何をしている人なのだろうか。
強盗か何かだと思ってはいたけれど真相をそう言えば聞いていない事に気付いたのは今更だった。
この事も聞いておけば更に私の問題が解決されるだろう事に間違いはないハズだ。
私の推測は恐らく間違えてはいない。
そう思えた。
「なんだ、知らねえのか?
幻影旅団っつーのは一言で言えば盗賊だ。
欲しい物は盗んで当たり前。
邪魔する奴等は団長の指令通りに生かすも殺すも良しってもんだ。」
「まあ、俺は戦えりゃそれでいいがな!」と私を床へと下ろして豪快にその人は笑った。
盗みも殺しも良い。
それがこの人達の生き方らしい。
平和な中で過ごしてきた私には考えられない生活だ。
番傘を男性から下ろしたフェイタンさんが私を見る。
表情はいつもと変わらなかった。
「盗賊なんですね。
なんだか実感が湧きません・・・。」
「大体、盗賊聞いて何も思わないか?」
「何故です?
それがその人の生き方なんですからなんとも思いませんよ。
私が住んでいた所は殺人や事故はありましたが、基本平和だったので今凄く貴重な体験をしているなって思います。」
私がそう言うと二人は呆然としているような、それとも唖然としているような表情をしたかと思えば、一人は呆れ、もう一人は大笑いした。
なにか可笑しな事でも言ったのかと今しがた発言した会話を振り返ってみたけれど、なにも不思議な所はない。
疑問に首を傾げていると、背中を強い力で継続的に叩かれて噎せ返る。
本当になにをしたのか分からない。
「お前面白いな!!
名前は?」
「え、面白い?名前?
名前は、リンです。」
「俺はウボォーギンだ!
まあウボォーとでも呼んでくれや!」
そしてまた背中を叩かれる。
力強いなこの人。
私大丈夫なのか、この先・・・。
少々な不安を胸に抱きつつ咳をする。
兎に角、ウボォーさんに会って一つ分かった事は幻影旅団という盗賊がこの世にいる事だ。
知らねえのか?というセリフがある通り、多大な程の知名度を誇っているらしい事は容易に分かった。
これでまた一つ定義が満たされたのだ。
私は静かにそれを頭に留める。
「・・・解決したか?」
「はい、大方まとまりました。」
フェイタンさんにそう告げる私を見てウボォーさんはなんの事か分からないと言った風に「あ?」と口を開けた。
「取り敢えず、団長さんにお話しなければなりません!
私の謎と、これからのことを!」
そして私は足早にキッチンから遠ざかり、図書室までの道のりを走った。
早くこの事を伝えなければならない使命を果たすために。
・・・・・・・・・・・・
息切れが口から漏れる。
広い屋敷を駆け抜けるのは案外疲れる物だと知り、私は震える手でノックをして扉を開けた。
中々運動不足ではないだろうか。
「すいません、リンです。
失礼しま・・・。」
ピタリと止まる体。
部屋の中には知らない人が二人いて、息を切らしていた喉が呼吸を止めた。
団長さんと、ノブナガさんに、マチさんはいつも通り。
金髪さんもそこにいた。
後の他二人は背の高い美人な女性と、全身包帯に塗れた人だった。
思わず体が止まる。
「けっ、けけけけ怪我人ですか!?」
「落ち着け。
怪我でもなんでもねえよ。
二人共俺達の仲間だ。」
頭が真っ白になる私に、ノブナガさんがそう答えた。
それを聞いた瞬間に安堵の息が漏れる。
別の意味で心臓が煩かった。
「よ、良かった・・・。」
「それで?
なにか解決したのか?」
「あ、はい!
私もまだ信じられませんがこの見解でいいと思います。」
思い出したように団長さんに報告する。
団長さん達はなんの反応も見せずにただ「そうか。」と了解するだけだった。
私は口を開こうとして、思い留まって閉じる。
幻影旅団の皆さんに話す必要があると、羞恥を忍んで初めてこの屋敷へ来た時のように集まってもらわなければ意味がないと、そう直感した。
再度口を開く。
「あの、お願いがあります。
私の、恐らく真実と思う見解を、迷惑でなければ皆さんの前でお話する事は可能でしょうか?」
「いいだろう。
初めて顔を合わせた場所でいいか?」
「はい、ありがとうございます。」
深く頭を下げると、自分のクセを帯びた髪が頬に当たってむず痒い。
顔を上げると美人さんと目が合った。
そして近付いてくる美人さんに肩が上がる。
お辞儀が浅かったのかとどぎまぎした。
「あなたがリンちゃんね。」
「え、あ、はい。
あの?」
「私はパクノダよ。
よろしく。」
すっ、と腕が伸びて来る。
これは挨拶の握手だと感じていながらも一歩後ろへ下がる。
回りが私の行動に目を見張っていたのが分かった。
それでも私は手を受け取れない。
「私、嘘を付きませんよ。
・・・利用される事が分かっていても、痛みから救ってくれた人達の為には役に立ちたいですから。」
へらり、と笑ってお辞儀をする。
そうだ、なにがあってもこの人達の役に立つ為に、私は色々自分を知っていかなくてはいけない。
辛くても、苦しくても、それが自分である限り、私は知らなければならないのだ。
頭を上げて美人さん、パクノダさんを見ると、柔らかい笑みを浮かべていた。
顔が熱くなるのを感じながら次は頭を撫でられる。
嫌な気配は微塵もなかった。
「ふーん、なるほどね。」
金髪さんの声がする。
なにがなるほどなのか、私には分からなかったけれど、皆さんは微笑んでいる事だけは分かった。
妙に恥ずかしい。
「俺はシャルナーク。
皆からシャルって呼ばれてる。」
「え、あの・・・、」
「俺はボノレノフ。
なんとでも呼んでくれ。」
「あっ、えっ、よろしくお願いします。」
新しく出て来る名前に困惑しながらもぎこちない笑顔で返す。
取り敢えず私は歓迎されているみたいだ。
私の胸に安心が訪れて、楽になった。
残る問題をどう対処するかを頭の隅で考えて、一旦部屋を出ようと断りを得て退出する。
すると、ドアの横にフェイタンさんが腕を組んで壁に寄りかかるようにして立っていた。
もしかすると会話を聞かれていたのかもしれない。
でも、別にいいのだ。
私は自分の思った事を口にしただけなのだから。
「フェイタンさん、私頑張ります。」
「・・・・・・ん。」
短い返事に、笑って、私に与えられた部屋を目指して走る。
今日はなんだかいい日になりそうだ。
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