黎明


「不思議だな。」

高く積まれた本の隙間で、団長がそう呟いた。

「リンのこと?」

「あぁ。
あいつのオーラの量は通常の人間より多い。
しかしリンは念の事はおろか、自分の事も知らない。
惜しいと思う反面で良かったと言える。」

本も読まないで真剣に一点を見つめ団長がそう言った。
「確かに。」とマチとノブナガが同時に頷く。
ワタシはその声を聞きながら文字を目で追ってはページを捲るを繰り返すばかりだ。
あまり興味がない半分、詮索しないでもいいと思う半分だ。
椅子に座って団長達の会話を聞き流していると扉が静かに開いた。
短い金髪を揺らしながら入って来たのはシャルナークだ。
片手にパソコンを持ち、欠伸を漏らす様を見てあまり寝ていない事が伺える。
シャルナークは団長の近くに腰を下ろした。

「あの子起きた?」

「昨日起きたよ。」

シャルナークの質問にマチが答えると、シャルナークは驚いた様に目を丸くする。
予想外だったのか次はため息を吐いていた。

「もう少し眠ったままかと思ったのに・・・。」

「どうかしたのか?」

「いや、まあね。
ハンターサイトに頼ってもあの子の出身、学歴、念能力、様々な情報が載ってなくてね。
まるでこの世に存在していないみたいにさ。」

両手を上げてお手上げ状態のポーズを取りながらシャルナークは説明した。
情報処理担当のシャルナークでさえこの有様なのだからあいつは相当な金持ちか、本当にこの世界にいない人物か、またはその他に通じるものかという選択が生まれる。
多額の金を積んで自分の情報を消すような人間には見えない。
誰かがあいつ自身を消したという理由も見当たらない。
なにせ、あいつの言葉が本当の事ならば、あいつにはこの世界が分からないからだ。
分からない、つまり知り合いもいないということ。
そうすればあいつは一体なんなのか。
どこから来て、何をしていたのか。
それが今の問題であり、あいつ自身の問題でもある。
それが解決するのはあいつの思考がまとまった時だと言える。
しかし、ワタシには他人事でまるで興味が湧かない。
勝手にしろと再度ページを捲った。

「フェイタン本当に知らない?」

「だからワタシは知らないて何度も言てるね。」

「うーん、フェイタンもマチも何も聞いてないなら仕方がないか・・・。
あの子が戻るまで腹ごしらえでもしようかな。」

そう言って空いた手で腹を摩るシャルナークは一つ伸びをして扉の方へと歩いて行く。
ふと、何かを思い出したかのように立ち止まって腰に手を当て考えている。
そして指折り数える素振りを見せ、話題を持ちかけた。

「今、パクとウボォーとボノがいないんだっけ?」

「それが?」

「パクノダがいれば記憶探ってみれば早かったんじゃ、と思って。」

「パクが来るより早く目が覚めたから仕方ないんじゃない?」

不服なシャルナークは「うーん、」と唸っては開き直ったように「まあいいか。」と別の話を振る。
眠気は何処へ行ったのか、その声はハツラツとしていた。

「今日中に来るかな?
招集の日にち決まってなかったよね?」

「そうだな。
もう来てるんじゃないのか?」

「はあ、なるほどね。
ところであの子、リンだったっけ?
リンの作った料理食べた?」

「あぁ、私は食べた。
サンドイッチ。
美味しかったよ。」

「俺も色々食べたぜ。
腕に申し分ねえぐらい美味かった!」

「なら大丈夫だね。
じゃあ食べに行こうかな、っと。
そろそろ眠いし。
あ、団長もどうせ食べたでしょ。
なに食べた?」

コロコロと話が変わるシャルナークに、よくそんなにも言葉が出るものだと言いたい。
徹夜明けのテンションなのかと問おうとして後々面倒くさい事になり兼ねないと思って、言葉を喉の奥に押し込んだ。
今日はあまりシャルナークに関わる事を避けようと席を立ち、気付かれないように部屋を出た。
本を片手に、取り敢えず書斎から離れようと行き先も定めてない足を動かす。
そう言えば、とあいつを思い出した。
まだ何やら作っているのか何気なく気になった。
まだ話を続けているだろうシャルナークはすぐには来ないだろうと決定付けて、あいつを目指して歩き進める。
段々香ってくる匂いは様々な物が混じり合ってはいるが、甘い匂いが強い事が分かる事から菓子を作っているのだろうと予想がつく。
甘い匂いが近付けば近付く程にあいつに近付いている事が確かになった。
そして僅か数メートルで目的の場所、という所で悲鳴らしき声が聞こえる。
それと同時に男の声。
別段急ぎもせずに中へと足を踏み入れた。

「ひゃあああああああああああ!!!?」

「お前が団長の言ってたお宝か!!
がっはっはっはっ!なんだ小せえなあ!!」

「たっ、たたた、助けてくださいいいい!
助けてくださいっ、誰か、フェイタンさああああん!!!」

数々の料理の山に囲まれた部屋の中で、例の女を頭上高くまで抱え上げたウボォーの姿があり、あまりの衝撃の光景に無表情で立ち止まった。




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