料理


あれから少しだけここの地形と本を見せてもらってからお風呂をいただいた。
私が思っている事が段々と確信を持ち始めた。
もしもお兄ちゃんが念能力者ならば私がここにいる理由はお兄ちゃんの力だという事になる。
お兄ちゃんが何故ここに私を飛ばしたのかまではまだよくは分からないけれど、時間があれば解決出来そうな気がする。
兄妹だからそれは尚更だ。
まだ考えなければならない事は多々あるけれど、その中でも気になっている事が一つだけあった。
ここの人達は私に何かを隠していることだ。
シズクさんといい、ノブナガさんは私の中の何かを指摘しての発言だった。
普通と、面白い。
彼等は私に出会ってからの私の記憶にない部分についてを言っているのだと仮定したならば、私は他に何らかの秘密を持っているのかもしれない。
彼等が知っていて、私が知らない私自身。
広い浴槽に体を縮こませるようにして座り水面を見る。
傷一つもない、不思議な体に疑問を乗せて頭を働かせる。
お風呂場の近くにある洗濯機が音を立てた。
洗濯から乾燥までが終わった合図だ。
私は疑問と困惑を胸に抱き、立ち上がって脱衣所に向かう。
存外、私だけが悩んでいるだけで、ここの人達は気にしていないように私に接してくれている分だけ私は安心をしていいのかもしれない。
そう思って洗濯機から衣類を取り出す。
少し熱いぐらいの衣服に腕や足を通して、まだ濡れている髪をそのままに足早にそこを後にした。
私はまだ無限にある時間の中で答えを見付けなければならない。
そして、答えを見付けた後にはここの人達に恩返しをしよう。
恐らく私はまだ、家に帰る事は出来ないのだから。
廊下を進み、団長さんがいる部屋へ向かう。
手っ取り早く答えを探す為にはあの方法しか私にはない。
だから団長さんに話を聞いてもらわなければならないと、私は扉を叩いた。

「すいません、失礼します。」

「リンか、早かったな。」

目の前には先程のメンバー。
団長さん、マチさん、ノブナガさんにフェイタンさんだ。
私は視線を少し彷徨わせつつも本題を口に乗せる。

「あの、私考えなきゃいけない事があって、少しの間キッチンを貸していただけないでしょうか。」

「どれくらいかかる?」

「前の時は二日間考えていたので、それぐらいだと思います。」

「二日!?
二日もずっと作りっぱなしだってのか?」

私の返しにノブナガさんが驚きの声をあげる。
やっぱりこれもおかしい事なのか、と思いつつも回りを見たら少なからず皆も驚いているようで私は返答に困った。

「あ、やっぱり材料費とか掛かりますよね・・・。
お菓子も料理も二日間も作っていれば光熱費、材料費、水道代も凄く掛かりますよね。
迷惑なんて掛からないなんて程の話じゃありませんよね。
・・・やっぱり私、部屋の中で考えがまとまるまでいま「金の事は心配しないでいい。
別に料理を作るだけで迷惑なんて誰も思っちゃいないさ。」

好きにすればいい、と団長さんは言った。
やはりここの人達は優しい。
私の事を迷惑な奴だなんて言わないのだから。
出来るだけ最小限に動こうと、心の中で決め事をした。

「なら出来たもん食っててもいいか?」

「はい!
お口に合えば良いんですけれど・・・。」

ノブナガさんにそう言ってから団長さんにキッチンまでの道を聞く。
暇だからと、マチさんが着いて来てくれるようだ。
私はお言葉に甘えてお願いしてもらった。


「どうだい?
こっちは慣れそう?」

「まだちょっとしかここにいませんが皆良い人ですね。」

「良い人、ね・・・。」

「はい。
まだ全員には自己紹介は出来ていませんが、私は皆さんの事が好きです。
私を人だと言ってくれた皆さんが、私は好きです。」

「あんた見かけによらず恥ずかしい事言うんだね・・・。
いや、素直なだけか。」

マチさんの言葉に疑問を持ちながらも前を見て歩く。
マチさんが私を見て何気なしに話題を持ち掛けた。

「誰に会ったか覚えてる?」

「あ、えと、先程の人達とシズクさんにしかまだちゃんと会っていませんが、どうしてですか?」

「別に対した事じゃないんだけどね。
どうだった?」

先程とは違う感想を述べればいいのだろうか、と少し考える。
私が話した人達は合計で5人。
5人分の人達について印象を言わなければならないという事だ。
大分緊張する場面だ。
これで人の機嫌を損ねでもしたら私はこれから先大丈夫だろうかと不安になった。

「あぁ、大丈夫だよ。
私も含めてそんなのを気にする連中じゃないから。」

「顔、に出てました?」

「はっきりとね。」

見破られていて肩が強張った。
元から隠し事や嘘を付くのも苦手な方だけれど、こんなにもあっさりと言われてしまうのだから私は相当な正直者なんだろう。
我ながらにため息を吐いた。
ならば正直者は正直者らしく本音を言おうと口を開く。

「最初、皆さんとここで会った時は少なからず怖かったんですが、一人一人と話してみればそうでもないというか・・・。」

「例えば?」

「そうですね・・・。
団長さんは凄く冷静で周りをよく見る方だな、と。
だから頭の回転が早いし、人の心を探れる。
ノブナガさんは、安心しますね。
話す言葉に偽りがないというか、熱い人だと思います。
マチさんは初めて見た時に美人というか、綺麗な人だな、と「ちょっ、待ちな!そんな世辞いらないよ!!」

話していた私を慌てたマチさんが遮る。
表情はあまり変わらないものの声音が上擦っている気さえする。
私は頭を傾けながらマチさんを見た。

「お世辞なんかじゃ「あー!あー!もう飛ばそう!私のはいいから!!」

「え、あの、あ、はい・・・!」

あまりの気魄にたじろいだ。
ここはマチさんの言う通りにした方が良さそうだと再度口を開けた。

「シズクさんはマチさんとは違う魅力を持ってると思いました。
あとは、お友達になれたらいいな、って申し訳ないながら思いましたね。
フェイタンさんは・・・。」

何というべきか、言葉に詰まる。
何度も私を助けてくれたし、なによりも安心するし・・・。
この思いはなんだろうかと詰まった。

「フェイタンさんは、なんでしょう。
不思議な方ですね。」

「まあ、初対面からしてみたらつっかかりにくいかな。」

「いえ、そうではなくて・・・。」

なんだろうか。
上手く言葉に出来ない。

「うーん、良い人なんですけど、えっと、頭撫でてくれたり!」

「良い人と関係ないような気がするんだけど。」

「いえ!関係ありますよ!
あとは色々助けてくださいましたし、恩人です?」

疑問系で応えればマチさんは小声で何かを呟いた。
私はそれが聞き取れなくてマチさんに尋ねてみたけれど、「なんでもない。」と微笑まれて頭を撫でられた。
話を逸らされたような感じがして眉根を寄せる。

「よしよし。」

「なんだか不服です・・・。」

そうこうしている内にキッチンに着いたようだ。
様々な器具があるように見受けらる広い棚に、広い調理場。
自宅のキッチンに比べて広いそれに胸を踊らせる。
冷蔵庫の中の材料も充分すぎる程だ。
私はマチさんに駆け寄った。

「広いです!
大きいです!」

「まあ屋敷だしね。」

「沢山料理出来ますよ!
わあ!何作ろうかな!」

今までに作って来た料理の数々を思い浮かべる。
最初は日本料理、それから中華にイタリア・・・。
もう、お兄ちゃんが食べたいと言ってきた物を作ってきたから相当な品数が出来るけれど、どうしようか。
皆の名前を聞く限り外国な人が多いだろうから日本以外の料理を作ろうか、と試行錯誤しているとマチさんが肩を叩いた。
私が振り返ると微笑んでいるマチさんを間近で見る形になり、頬が途端に熱くなる。
私は美人に弱いのかもしれない。

「考える時間はたっぷりあるんだから気軽にね。」

「えっと、あ!
はい!ありがとうございます!」

マチさんにそう言われてから、取り敢えず落ち着こうと火照った頬に両手を当てて熱を冷ます。
次第に頭が冴えて来る感覚が押し寄せて来て、腕を捲った。
水道から水を出して手を晒す。

「マチさん、私が作り始めたら話しかけても恐らく応えないと思ういます。
ですから無視なんて思わないでくださいね。」

「あぁ、大丈夫。
誰もそんなの気にしないよ。」

「ありがとうございます。
では、集中します。」

私は考え始めた。
私が何故"この世界"にいるのかを。
そして"この世界"で生き抜くかを。

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