開花


『おい、おーい。』

誰かが呼ぶ声が聞こえる。

『ねえ、ねえってば。
生きてる?』

私の事かな。
私なら生きてます。
呼吸もしてるし、意識もあります。

『起きてくれないとこっちが困るんだけどなぁ。
ちょっとフェイ起こしてみてよ。』

ちょっと待ってください。
私が起きないと困るんですか。
それなら今起きますので困らないでください。
私は迷惑を掛けたくないんです。

「・・・んっ。」

「あ、起きた。
フェイタンが渋らなかったらなぁ。」

横になっている体のまま目線を上へと上げれば、どこかで見た綺麗な金髪をした男の人が視界いっぱいにそこにいて、そんなに男性に免疫がない私はびっくりして慌てた。

「ひゃああああああああああああああっ、あああっ!!?」

下手に状態を起してしまったのと同時に、バランスを保つ為に床に付いた手に自分の髪を巻き込み、その衝撃で勢い良く頭を仰向けの状態で打ち付けてしまった。
痛い。
そして恥ずかしい。
涙目のまま、次は静かに、丁寧に状態を起こす。
取り敢えず謝っておこう、とその人に向き合おうと体を直そうと正座にする。
すると必然にも周りが見える。
凄く広い広間のような場所で、私を囲むように男女それぞれ、訳10人程の人達がいた。
驚いて硬直する。

「ご、ごごご、ごめんなさい・・・。」

思わず出たのは情けない声で、無様にも土下座をしていつの間に着替えたのか、穴の無い綺麗になった制服の袖で目元を覆う。
勇気を出して何かを言う自身がなかった。
自分の自身のなさに泣きたくなる。
そのままの状態で固まっていれば、話が進まないと判断したのか黒いコートを着た男性が言葉を発した。
本当にごめんなさい。

「顔を上げろ。
俺達は別にお前をとって食おうなんて思っちゃいない。」

言われた通りにすると、未だに視線は私に刺さる訳であって。
「視線に耐えられません。」なんて言えるはずもなく、結局言葉として出て来たのは「ごめんなさい。」の一択だけだった。
申し訳なさに顔が下がる。

「覚えていないか?
昼間の面会で俺達がお前を盗ると言ったこと。」

「えっ・・・?」

その人の顔を良く見る。
あの時の男性の面影があるし、先程の金髪の男性もその日、私に会った人だという事に気付く。
ならもう一人は何処にいるのだろう。
最小限に首を動かして頭を撫でてくれた人を探す。
右に傾けた時にその人はいて、私から離れた階段の隅に腰を下ろして本を開いていた。
そこで私はこの人達に盗られた事を知る。

「覚えて、ます。」

黒いコートの男性へ視線を戻してそう応えると、「ふむ。」と何かを考え込むように顎へ手をやった。
私は緊張から大分余裕のある袖口を、両手共々軽く握る。
何かされるのだろうか。
また痛い事をさせられるのだろうか。
嫌な思いだけが頭をを占める。
決してそうではない事を祈りながら言葉を待った。

「いつからいたのか、どうやって来たのか、体質に、歌の力を質問したのは覚えているな。」

「はい。」

「その日応えた事に嘘偽りはないな?」

「嘘偽り、かはよく分からないんですが、自分でもまだ整理が付いていないんです。」

「というと?」

足音が近付く。
一生懸命に考えようとしてもまとまらない。
落ち着け、と自分を静める。
何故あそこに、サーカスに居たのかを考えればそれで済むことなのだけれど、緊張と焦りとが入り混じり中々思考が進まない。
質問している人の迷惑になる、と焦燥が募る。

「何もない空間から、現れたらしいんです。」

「らしいとは?」

「私は、その事を全く覚えてなくて・・・。
私がいたサーカスのおじさんに聞きました。」

そうだ、あの日私はそうやって来たんだと、やっとの事でそこまでを言う。
大分時間が掛かった。
周りにいる人達も黙って聞いてくれる。
私は息を大きく吐いた。

「答えが、まとまらなくて・・・。
あれをやれば集中して応えられると思うんですが・・・。」

「あれ?」

伸びる手。
あと数センチで私に触れるという距離で、ブレーカーが落ちた時のようなバツンという音が頭に鳴り響くのを受け止めながら目の前が真っ暗になった。


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