友達



授業最後のチャイムが鳴り響いて顔を上げる。
いつの間にか終わってしまった授業に驚きながらも内心焦る。
ノートには何も記しておらず、涙で濡れた紙があるだけだった。
これは、失敗したと号令に合わせながら頭を落とし思った。
愛ちゃんのを写させてもらおうか。
迷惑かな、と不安になりながらも帰る支度をしている愛ちゃんの肩を遠慮がちに叩いた。
愛ちゃんは笑顔で私の方へと顔を向ける。
「なに、凜?」と聞いてくる声に安心を覚えてノートを突き出した。

『さっきの授業聞いてなかったから、ノート貸してもらえる?』

「全然いいよ。
考え事なら皆手は動かないからね」

愛ちゃんの言葉にドキリと心臓が鳴った。
バレていたかもしれないと思いつつ差し出されたノートを取って『ありがとう』と声を渡した。
疑問に思われただろうか。
しかし決して何も言ってこない愛ちゃんは、とあるプリントを取り出してペンを走らせている。
今日配られた数学の宿題だった。
愛ちゃんは先程の授業の私を知っているのかは定かではないけれど、もしかしたらと考えてみる。
愛ちゃんは、私が傷付かないように遠回りにでも気遣ってくれているのかもしれない。
これは自己満足にしか過ぎないけれど、愛ちゃんならそうしてくれていると、何故かそう思う事が出来た。
素敵な人に出会えて良かった、と借りたノートを直ぐ様に、急いで書き写す。
優しい友人には迷惑を掛けたくない、と言う思いで丁寧で見やすいノートから文字を読み取っていった。
回りが賑やかな教室にガラリと扉を開く音が聞こえた。
先生だと思い込んで、顔を上げずに手を動かす。
先程の授業は筆記よりも説明が多かったのか、文字が少ない。
短時間の間でなんとか写せそうだ。
前に掛かってある時計で時間を確認しようと頭を上げれば、目の前に人がいた。
ビックリしつつもその人を見る。
昨日からお世話になっている兼長年からの片想い相手の紫原君が私の机の前にしゃがみこんでいた。
どこかで見た光景に驚きを隠せず固まっていると、紫原君が口を開いた。
隣で青峰君と愛ちゃんが笑っているのを私は見逃さなかった。

「凜ちん、今日どうするー?」

主語がない話し方でも何が言いたいのかは予想が付く。
紫原君は昨日同様、一緒に帰宅するかを聞きたいのであろう。
それで先程の質問だ。
放課後は好きな人と帰りたい、けれどこの学校に来て初めて出来た友達とも帰りたいのだ。
そして愛ちゃんの先程の言葉の真相を聞き出したい。
本音を言うとこれが一番の理由で、今日は愛ちゃんと一緒にいたいから紫原君へそう告げようと思い、ノートに文字を書こうと手を動かそうとして止めた。
言葉を文字にしなくても昨日みたいに紫原君へ通じるかもしれないと考えたからだ。
だからペンを置いて、隣にいる愛ちゃんを少しだけ見て視線を戻した。
紫原君は考える素振りもせずに首を縦に振って微笑んでくれた。

「そっかー。
うん、分かった。
帰り道気を付けてねー」

去り際に頭を一撫でして教室を出ていく紫原君。
通じた事と頭を撫でてくれた事に対しての嬉しさが大きく、心の中で舞い上がる。
今の私は凄くだらしない顔をしているのだろうな、と鏡を見ずとも分かる程にやけているんだと思う。
しかし、重大な事が一つある。
それは、愛ちゃんに一緒に帰宅許可を得ていない事だ。
確か、愛ちゃんは部活には所属していないと言っていた事を思い出す。
ここまでは完璧なはず、と愛ちゃんに向き合って話をしようと目を見る。
愛ちゃんは暖かみのある笑顔で返してくれるだけだ。
私から切り出さないと、とノートを取って愛ちゃんにつき出す。
真面目に読んでくれる愛ちゃんに感激しながらも返答を待った。
緊張する。

「私図書委員なんだけどさ、今日の放課後本の整理をしなくちゃいけないんだ。
それが終わったら一緒に帰ろう」

まさかの返答に驚きながらも喜んだ。
友達ってやっぱりいいな、と思いながら愛ちゃんの手をとって私の気持ちを表現すべく、大袈裟ながらも上下に愛ちゃんの手を振る。
愛ちゃんは尚笑顔のままだ。
今日は好きな人といられない分、友達と過ごそう。
そして図書委員の仕事を手伝おう。
そう心に決めた瞬間に担任の先生が教室に入ってきたから再び、ノートを写す作業へと移ってホームルームに入った。
帰り道が待ち遠しい。















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