苦悩



昼休み、パイを届けに各教室を回っていた時から凜ちんの様子がおかしかったのは分かっていたし、気付いていた。
俺が嘘をついているのを凜ちんは多分気付いていたんだろう。
でも本人は俺の嘘が恋心である事は分かっていないのだろうと予想がついた。
何も隠さずに教えてほしい、そんな気配が漂っていたからだ。
純情で純白な彼女に、俺のこの数年来の拙い想いを伝える事は案外簡単なのかもしれない。
でも、しかし、そんな事をしてしまえば明らかに今の関係は崩れてしまう。
親密とは言い難い昨日からの旧知という関係。
直ぐ様告白してしまえば相手がこうだと思っていた俺が崩壊し、軽い男なのだと印象付けられてしまうのが明白だった。
そもそも彼女、篠崎凜は俺の事など眼中になく、小学生の頃からの唯の顔見知りとしか考えていないかもしれない事は決してない訳じゃない。
だから本当の事を言葉にして相手に伝える事が出来ない。
例え、教えてと言われてもこの気持ちを伝える術は今はどこにもないのだ。
勇気が欠陥している事は頭では分かってはいるが、心が命じてくれない。
動いてくれない。
あぁ、これが人間なのかと改めて実感しつつ悲しみに溺れる。
なんとめんどうくさい性なのだろうか。
たった二文字の感情を表す事が出来ないのだから。
授業でも生活の中でも決して訪れる事はないこの愛しいと言う気持ちは、彼女に伝えてはならないし、まだ自分の中にしまっておいた方がいいのだろう。
授業中なのに回りが出す話し声が頭に付く。
でも内容が入ってくる事はない。
片肘を着きながら考えるのはあの子の事ばかり。
今あの子を見たい、触れたい、と言う欲求が尽きない。
この気持ちを伝えたいと思う事は人として当たり前なのか、罰なのか。
それすらも悩む俺は、そんな俺自身を弱いと感じた。


苦悩














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