葛藤



桃井さんに会ってパイを渡し、愛ちゃんにも会って同じく渡した。
皆美味しいと言ってくれた事は正直な感想、嬉しいの一言につきる。
一緒に着いてきてくれた紫原君には勿論感謝しているし、隣にいてくれて本当に安心したのだけれど何か紫原君は私に隠し事をしているような気がする。
悪い意味か、良い意味なのかは分からないけれど、それでも隠している事は気になるし、それでいて何かが胸につっかえて苦しくなる。
私には言えない事なのか。
でもよく考えてみたら数年ぶりに会った相手に自分の事を話そうと思う人は少ないんじゃないか。
私も紫原君に言えない事は山程ある。
主な事が引っ越し先の事だけれど、人に話すには少し重くなりそうな話だからあまり口に出したくない。
でもいつかは話さなければいけない。
それは分かってる。
私にとってのストレスは今ここにはいないのだから、安心出来る人に私の過去を聞いてもらわなくちゃいけないのに、なのに、私は・・・。
私は、ズルい。
人に甘えているだけではないか、と頭を抱えた。

「凜?大丈夫?」

愛ちゃんが心配してくれている。
大丈夫だよと笑って頭を立てに落とした。
いつものこと。
今の私の気持ちと過去の気持ちが入り混じっては、過去だけがいつも勝って今を置き去りにしていく。
だから誰にも言えない。
言いたくても言えない。
私の中の葛藤が終えるまで、声を出す事も出来ない。
自分に勝たないと、好きな人の名前も呼べない。
好きを言葉にする事も出来ない。
目頭が熱くなって、先生の声が頭に入って来ないし、右手に持つペンも震えて字が上手く書けない。
弱いなあ、そう思って顔を下に下げた二日目の午後。


葛藤














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