イメージチェンジ
昼食も食べ終わりいよいよと凜ちんの切ってくれたパイを口いっぱいに頬張る。
林檎の甘さとパイの食感が良い感じに絡み合っている。
これはもう間違いない。
「凄く美味しい」
「何の文句もつけようにないっス・・・」
素直な感想を述べる。
これはもっと食べたい欲求に刈られるが八等分して皆で食べているから残りは二切れしかない。
一つは多分さっちんので、もう一つはまだ食べてない凜ちんの。
食べないのだろうか。
自分が作った物を食べるのは抵抗があるのか、それとも友達が出来たのか。
素朴な疑問だった。
「凜ちん、友達出来た?」
俺の質問に驚いたのか肩が上がった凜ちんだけど直ぐ様へらっと笑って照れた様に頷いた。
昔だ。
昔のあの柔らかい笑顔だ。
でも少し、違う。
何が違うのかよく分からないから凜ちんをよく見てみた。
昔と違う所・・・。
喋れないし、多分身長も伸びたし、髪は、あまり変わってないかもしれないし。
いや、髪。
そうか髪だ。
前髪が目元まで隠れているから昔と違った印象を持つんだ。
制服のポケットに手を入れて誰かに貰った様な、自分で最初から持っていた様なあやふやな記憶のままそれを引っ張り出した。
「凜ちんちょっと」
首を傾げてパイの入っている箱を片付ける手を止めている凜ちんに腕を伸ばす。
前髪に触れてポケットから取り出した物を付ける。
何の変鉄もない、唯のピンが凜ちんの鼻を過ぎたぐらいの髪を右へ留めた。
今まで見えなかったはずの目がはっきりと見える。
久しぶりにちゃんと顔を見た様な気分になった。
「紫原お前何でそんなもん持ってんだよ。
髪がなげえからか」
「何でだろうねー」
「覚えてないんですね紫原君」
黒ちんに的確な事を言われたけどまあ気にしない。
凜ちんは自分の顔を隠したいのか慌てているようだけど、人にしてもらった事は決して無下にしないのが凜ちんだ。
だから決して今日はそのピンを外さないだろう。
それにしても、本当に表情が分かりやすくなった。
顔が赤いのがよく見える。
「そう言えば、今日クラスの奴等が言っていた噂があるのだが」
「やはりそのクラスが元みたいだな。
こちらもその噂が起っている」
ミドチンと赤ちんの台詞に顔の赤みが一層強まった凜ちん。
思い出したのか峰ちんも「あー」と声を漏らしてちらりと凜ちんの方を横目で見ていた。
その噂と言うのは凜ちんに関係があるのだろうか。
悪い噂なら噂を広めた人物をひねり潰そうと思う。
「あれか、こいつの声聞いたら幸せになるとか言うやつだろ?」
「そしてもう一つが篠崎と紫原が恋仲同士だと言う噂だが」
「転校してから2日目でそんなに有名になるとは凄いですね」
最終的に机に突っ伏した凜ちんは耳から手まで真っ赤に染まっていて、何と言うか可愛い。
抱き締めたい衝動を抑える。
「考えるっスねえ皆」
「じゃあその噂一つ達成してるのは俺だけだねー」
「小学校が一緒ならそりゃ聞けるだろ」
食べ終わった食器はお盆に乗せて、それぞれ立ち上がって器を片付ける為にカウンターへと持って行き、食堂を出た所で解散する形になった。
皆各定位置に着く為に足を歩めていくけど、俺と凜ちんは一歩も動いてない。
多分凜ちんはパイをさっちんへ届けに行くはずだ。
何処にいるか悩んでいるのだろうか。
「届けに行くんだよね?」
両手で大事そうにパイの入った袋を抱える凜ちんは一つ頷いた。
なら行こうか、と足を踏み出すけど本当に今さっちんが何処にいるのか分からないから進み様がない。
適当に教室から行ってみようかな、なんて考えながら凜ちんの隣を歩く。
そう言えばとさっきのミドチンの言っていた噂話を思い出す。
凜ちんは気にしている様だけれどそんなに気にするものだろうか。
横目でちらりと凜ちんを見れば、食堂に居た時とは大分違うけれどうっすらと顔が赤い。
俺との噂がそんなに嫌なのかな、なんて少し考えて落ち込みそうになる。
「噂、気になる?」
直球で聞かずに遠回しの質問に凜ちんは一つ首を縦に下ろした。
「それって俺との噂?」
進めていた足が止まる。
凜ちんは俺に目線を合わせて何か言いたそうに口を開閉させる。
目は何かを訴える様で真っ直ぐしては、伏せた。
まさかと思う。
凜ちんは俺の立ち位置を心配しているのではないかと、何故かそう思った。
「凜ちん、俺気にしてないよ。
唯の噂だし、それにきっと・・・」
続きは言わない。
今の関係を壊したくないとも思うし、それに恥ずかしかった。
照れ隠しに頭を撫でた。
凜ちんは分かってない様だからよしとする。
でも早く、この気持ちから脱する為に凜ちんの手を引っ張って教室を目指した。
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