占い最強伝説



世界史が午前最後の授業で、私は学校に勉強をしに来たのに全くと言う程内容が頭の中に入って来なかった。
これは、まずい。
朝に愛ちゃんから聞いた噂を整理すべく、午前の授業は丸潰れになる程の多大な時間を使ってしまったけれど、未だに頭は混乱するばかりで内心焦っている。
愛ちゃんは「只の噂だから大丈夫だよ」と言ってくれたけど、大丈夫じゃない。
青峰君に相談してみれば「へぇ、まあ良いんじゃね?」と会話を投げ出された。
もう私は何をどうすれば解決するのか分からず、昼休みを迎え、アップルパイを渡しに行くと言う非常に会いにくい状況に逢ってしまった。
青峰君が席を立って私の席の後ろで立ち止まる。

「俺食堂行くけどお前も来るだろ?」

「あ、凜食堂行くの?
なら食堂で食べてきなよ。
私用事あるから」

青峰君は私を待っているのか動かず、愛ちゃんは私の心情を分かっているのか見ないふりをしているのか席を立って何処かへ行ってしまった。
もう此処まで来たら仕様がなくなる。
私の二択しか無かった昼休みの選択は一つに絞られて泣く泣く私も自分の席から離れ、荷物を持ち、青峰君の後を付いて行く。

「しっかしあれだな。
声だけで幸せになるなんて考える奴はよっぽど暇なんだろうな」

移動中の会話は今私が悩んでいる中の一つで、私は涙ながらに首を縦に振った。
創設者には申し訳ないけれど噂される本人の事を考えてほしい。
確かに喋れなくなっただけで喋れなくはないけれど、今は難しい。
過去のトラウマめいた物はそうそう改善出来る物じゃない。
そこまで考えれば私はまだ子供だと思う。
私のイメージでは大人は辛い事を直ぐにでも忘却出来る人だと思うのだ。
或いはそう言う経験を元に、次に活かして発展させる様な凄い人、それが大人だと。
私は前の事を未だに引き摺っているから駄目なんだと自分に言い聞かせれば聞かせる分だけやる気が、みなぎってくる訳でもなく。
逆に落ち込んでいく様なネガティブな人間であり、更にそれを引き摺って行くから駄目なんだと落胆した。

「自分を追い込むなよ。
悪いのはお前のせいじゃねえだろ」

私が漂わせている負のオーラを感じとったのか青峰君はそう言葉を掛けてくれた。
良い人だと顔を上げて青峰君を見れば頭をがしがしと掻いている。
照れているのか顔を背けた。
やはり良い人だと思って歩き続けていると目の前に扉が見えた。
上を向くと『食堂』と書いてある。
右に向けていた顔を真っ直ぐに直し、青峰君は扉を開けて中に入った。
私も後に続く。

「あー、今日何食うかな。
お前は、ってそうか弁当か」

食券の販売機の前で私に話し掛ける青峰君は何にするのか決まったのかとあるボタンを押して出てきた食券を片手に厨房の人達に差し出した。
厨房の年配の人達は素早く動いてあっという間に青峰君が頼んだ昼食を渡す。
ご飯は山の様に積み上げられていて、目を疑った。
青峰君は料理が並んだお盆を机がある場所まで持っていき、とある席に着いては指を指した。
どうやら此処に座れと言う意味らしい。
私は何の抵抗もなく椅子に座った。

「腹減ったー。
テツ、お前本当にそれだけで足りるのかよ」

お箸を持った青峰君は向い側の席に声を掛けた。
私はお弁当を取り出しながら青峰君がお箸で指す方向に目を向けると昨日一緒に帰宅した黒子さんが居た。
驚いて肩が上がる。
また失礼な事をしてしまったと反省しながら、心の中で謝る。
本当にごめんなさい。

「僕は食が細いので。
篠崎さんはお弁当なんですね」

厭に心拍数が上がりながらも頷く。
昨日も思ったのだが、黒子さんは不思議な人だ。
礼儀正しくはあるが、どこか淋しい様な、そんな印象を持った。
彼は一体何者なんだろうか。
本当に不思議な人だ。

「隣座るのだよ」

「じゃあ俺凜ちんのお向かいー」

「俺は青峰っちの隣で!」

いきなりの複数の声には慣れない。
顔見知りと言うか、知り合いと言うかは悩み処だけれど威圧感が半端ではないぐらいに肩にのし掛かる。
バスケ部の皆様がそれぞれ席を確保しに近くに座ったのだ。
回りが背の高い人達に囲まれては食事しずらい。
取り敢えず此処は食堂。
何か食べ物を食べなければ違和感だらけであるからお弁当箱の蓋を開ける。
今朝作ったおかずの数々は質素丸出しの物だから此処で食べていいのか凄く苦悩する。
お箸を持ち、お惣菜から手を付けた。

「凜ちんそれ自分で作ったの?」

高く盛られたご飯を次々に減らしていく紫原君は口をもごもごと動かしながら疑問を出す。
食事中であるから紙に書いて会話をするのははしたない行為になるので首肯だけで答える。

「へぇ、親以外でも料理が出来る女なんているんだな」

「いるっスよそりゃ」

「お前、考えてみろ。
さつきの料理は壊滅的だろうが」

「桃井はそうだが他は別だろう」

ちびちびと食べながら会話を聞いていく。
桃井さんはそれほどまでに料理が出来ないのか、散々言われている。
昨日フォローした黒子さんでさえ何も言えない状態だ。
どんな料理をするのか気になる。
少し食材を焦げさせてしまうのだろうか。
それぐらいならまだ大丈夫だと思うけれど。

「あのね凜ちん。
さっちんは凄いんだよー。
レモンの蜂蜜漬けはレモン丸ごとだし、カレーに至っては食材そのまんまとか、兎に角凄いんだよー」

「紫原はそこまでしか知らないようだが、あいつが作る物全て人を死に至らしめるまでの殺人料理が出来上がる。
俺は何度花畑に浮かぶ川を見たことか」

「青峰君、それを渡ったら死にます」

想像以上で想像が出来ないから何とも言えないが、皆心無しか俯いている様に見える。
私、お菓子作りの約束しちゃった。
どうしよう、凄く不安になってきた。

「篠崎なら桃井を変えられるんじゃないか?」

今まで口を開かなかった赤司さんが初めて口に出した。
その言葉は少し意外で嬉しい。
この人はあまりそう言う言葉を言わないと思っていた。

「赤司が言うのなら間違いないのだよ」

「そうですね」

「流石っス!
俺次から篠崎さんの事篠崎っちって呼ぶっスわ!!」

「お前切り替え早いな」

「いや本当は今朝呼ぼうと思ってたんスけどタイミング逃しちゃって。
そう言えば篠崎っちあれ今渡したらどうっスか?
その為に食堂に来たんでしょ?」

黄瀬さんは私にそう促して、自分が選んだメニューを半分以上まで食べ進めていた。
そう言えばと私はアップルパイが入った箱を袋から取り出して机の上に置く。
箱の蓋を取って中身を見せる。

「(良かった崩れてない)」

私は安心の息を吐いて、お弁当を再び食べ始める。
私の回りの人達は歓声の声を上げてくれた。

「すげえ、パイだ」

「クオリティ高いっス」

「美味しそう」

褒められて顔が熱くなる。
あまりこう言った経験はした事がないから照れてしまう。
照れ隠しのつもりで私は急いでお弁当を食べ終えた。

「切り分けは、どうするんですか?」

お弁当箱を仕舞っていると黒子さんがそんな事を呟いた。
食べてもらえるならなるべく多くの人に食べてもらって感想を聞きたいけれど、この様な1ホールもあるような食べ物は切らないと食べてもらえない。
ナイフは盲点であったと気付かされ気落ちしてしまった。
これは厨房の人達に借りるかぐらいの選択肢しかない。
たまたまこの場にいる中でナイフを持つ人はいないだろう。
私は自分の失態に落ち込む他なかった。

「切り分ける物ならば俺が持っているのだよ」

どこからともなく緑間さんは包丁を取り出して私へと手渡した。
何でこの人は包丁なんか持っているのだろう。
この状況は疑問しか生まれない。

「占いって、恐ろしいっス」

「役に立つ時は立つんだねー、おは朝占い」

「俺は人事を尽くしているからな」

眼鏡を上げる緑間さんはやはりよく分からない人だった。
けど、これでパイは分けられる。
私は貸してくれた包丁を使ってパイを切った。


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