ゆっくりと
紫原に体育館入り口で待つ様に言ってから数分。
篠崎の奴が来た。
あいつらが話している所を見たかったのは面白半分のつもりで合わせた。
最初は俺一人で見る予定だったが、いつの間にやら観客が増えて、今では6人で眺める始末。
何故そうなってしまったか、なんて原因は簡単に分かる。
休憩中に入り口付近で隠れながら外を見ていれば誰もが不審に思うだろう。
だから興味津々で最初に黄瀬が俺の所までやって来た。
次に緑間、テツ、赤司、さつきの順だ。
緑間以外は紫原の将来の彼女を見に来たのだろう。
全員が食い入る様に外を見る。
「紫原っち、ああ言う子が好きなんスねえ」
「タイプっつーか、多分一目惚れとかじゃねえの?」
「きっとそうだよ。
だってむっくん今雰囲気柔らかいし」
俺と黄瀬、さつきが喋れば喋る分だけ緑間の眉間にシワが出来る。
真面目な上に鈍い奴にはこの会話は訳が分からないのかもしれない。
俺が溜め息を吐くと、それを見かねたのかテツが緑間に説明し始める。
「緑間君には分からないと思いますが、今あの二人は両思いの仲なんですよ。
つまり好き同士と言う訳です」
「・・・そうなのか?」
テツの馬鹿にでも分かる説明のお陰か、緑間は分かった様なそれでも分からない様な返事をした。
でもまあ、何となくでも分かってくれた方が後々助かる。
これでこいつの好きな奴に対する態度も変わるだろうと、今に関係ない事に安心すれば外の二人は先程よりも距離を縮めていた。
「うー、何話してるのか全然分かんない!」
「今!今頭撫でたっスよ!」
「二人共静かにしろ」
さつきと黄瀬に制裁したのは赤司だ。
意外と赤司もノリノリな件には驚きを隠せないが、何か考えがあって参加しているのかもしれないと思えばやはり侮れない。
赤司が口に出したそれからは皆無言で見守る体制で眺めていた。
暫く経ってから口を開いたのは意外にも緑間だったから、今日二度目の驚きだ。
緑間は先程恋愛レベルが上がったからか、こんな質問をした。
「あの二人が好き同士ならば何故何もしない?」
全員が呆然になり、そして噴き出しそうになったが鈍感の前で笑ってはいけない。
緑間も緑間なりに気に掛けているのだ。
「恐らく、二人は奥手なんですよ」
「それに相思相愛だと気付いていない」
「何かすれば嫌われるとか思ってるんじゃないっスかね」
「皆嫌われない様に必死なんだよ」
「ま、そういう訳だ緑間。
お前も頑張れ」
「なるほど。
と、それはどういう意味だ青峰」
最後の俺の台詞が引っ掛かったのか腑に落ちない緑間は眼鏡を上に押し上げた。
苦笑していればもう二人は別れている最中だった。
結局会話は聞き取れず、外で起きた光景を見ているだけだったが愉快である事は皆同じだったらしい。
こちらへ向かって来る紫原は溜め息を吐いていたが、こっちはしたり顔だ。
「俺達も頑張らねえとな」
「そうっスね」
それぞれが抱える色恋の悩みはまだ解けそうにない。
そう考えて、俺達は練習を再開する為ボールを手に持った。
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