昔との違い



進めていた足を止める。
彼がいるとは思わなかったから。
そこに彼が立っている等、誰が考えただろうか。
少なくとも私は予想だにしていなかった。
ここで会うと分かっていたら紙とペンをわざわざ鞄の中に仕舞いはしなかっただろう。
私はとんでもない失態をしてしまった事に激しく後悔をした。
だからどうする事も出来ずに只々立ち止まっていたら、紫原君は一、二歩私に近付いて口を開いた。

「どうしたの?
峰ちんに呼ばれた?」

紫原君の口から出たのは何故此処にいるのか、と言う事と誰かに呼ばれたか、と言う疑問だった。
その誰かとは峰ちんと言う確信めいた人を出した。
今日出会った中で峰と言う文字がつく人を探したら教室でずっと話していた人を思い浮かべた。
青峰君の事かな、と頷く。
同じ部活をしているならこの人の事を言っているのだろうと予想がつく。
私の応えに紫原君は何とも言えない表情をした後に肩が下がった。
どうしたのだろうと待っていると再度紫原君は言葉を発する。

「あの時はごめんねー」

突然の間延び声にまた思考を巡らせる。
あの時は、どの時だろうか、と。
紫原君が謝るぐらいだから私に何かしたのだろうか。
小学生の時はあまり話した事はないし、今日が特別と言えるぐらいに多くを話した。
紫原君は何を謝っているのか、昼休みの出来事を振り返る。
涙を拭いてもらって、頭を撫でてもらって、後は・・・。
私は気付いて勢い良く頭と手を横に振った。
謝る必要なんてないよ、と口を開けるが声が出ず、もどかしくて俯いた。
筆記なら分かるかもしれないと一旦荷物を置いて紙とペンを探す。
もっと鞄の中を整理しておけば良かったと反省して漸く手に取るが、紫原君に静止された。
掴まれた手に熱が籠る。

「えと、気にしてないってこと?」

理解してくれた事に驚きつつ首を立てに振る。
私が思っていた事が伝わって嬉しかった。

「良かった、ありがとー」

笑って頭を撫でてくれる手に、私も笑って返す。
あぁ、私本当に紫原君が好きなんだ。
数年越しに改めてそう思った。
紫原君は優しいな、と何をする訳でもなく頭を撫でられていてふ、と思い出した。
結局昼休み食べれなかったカップケーキ。
どうせ家に帰って食べるよりは部活が終わった人に食べてもらった方がカップケーキも喜ぶんじゃないか。
そうだ、そうに違いない。
私は鞄の中にあるカップケーキが入った袋を取り出して、紫原君の手を取って渡す。
自分が作った物を人にあげるのは案外恥ずかしい物なんだと言う事が分かった。

「くれるの?」

頷けば、紫原君も何か出してきた。
コンビニ袋に様々なお菓子が入っていて、「お礼にあげるー」と言って差し出してくれた。
あげるのは良いけれど、貰うのは悪い気がする。
紫原君は「早く」と急かした。
ここまで言われたら貰わない訳にはいかない。
手を袋の中に入れて探る。
飴がいいな、と思って苺の飴を取る。

「それだけでいいの?」

頷けば紫原君は不服そうな表情をした。
私何かしたかな、と体が強張ってしまった。

「凜ちんは相変わらずだから心配。
今日、部活が終わるまで待ってて」

有無を言わせない目で私に言った紫原君。
初めての表情にゆっくりだが頷いてしまって、一緒に帰る事になってしまった。
集合場所を校門前にして別れた。
荷物を持ち直して来た道を戻る。

「(いつ部活が終わるか、聞けば良かった)」

私は貰った苺の飴を大事に制服のポケットへ閉まって、初めての学校を歩き回る。


昔との違い













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