授業遊戯



掃除の時間の後、席に着くと隣の席の青峰君が私に話し掛けてきた。
午前中までずっと寝ていた青峰君が午後になって私に喋るのは先程の掃除の時間の出来事があったからだろう。
私が紫原君の事を知っていたからかもしれない。
私は授業中に言葉を出すのは先生に失礼だからと言って、筆記での会話をして授業の間本当に賑やかだった。

『お前バスケ好きか?』

何通か世間話をした後に青峰君がその話を持ち出してきた。
返答に困る事もなく、自分に正直な感想を書いて青峰君へと渡す。

『詳しいルールとかは分からないけど、好きだよ。
他の球技にも言える事だけど的確な判断をして仲間にパスを出したり、一緒に協力して頑張る姿が好き』

私の返事を読んだ青峰君は一瞬微笑んだかと思うとすぐに真面目な表情へと戻ってノートの切れ端を私へ渡した。
書かれている言葉に目を閉じかける。

『紫原のバスケ見てみたいか?』

紫原君はスポーツに関して小学生の時無気力だった。
それは恐らく今も変わっていないと思う。
青峰君はバスケが本当に好きだからあまり紫原君のバスケに対する取り組みは快く思っていないのかもしれない。
私自身も紫原君にはバスケを楽しんでやってもらいたいけれど、きっと今のままでは駄目だと何故か言いきれる。
そう感じてしまう。

『ズルいかもしれないけど今は、見たくない。
でも只の勘だけど、紫原君はバスケに対する感情が変わると思う』

青峰君は、「そうか」と呟いてそのノートの切れ端に文字を付け足した。
私はそれを読む。

『ところで今日の放課後何すんだよ』

突然の話に緊張の糸が切れた。
さっきまでの緊迫とした空気は何処へ言ったのだろうか、青峰君は欠伸を一つ洩らしてちらりと黒板を見る。
数字の羅列が連ねられていて、見るからに勉強への意欲が削がれる、そんな印象を持った黒板だった。

『放課後は学校の中を見て回ろうかな、と思って』

『まあ転校初日だからな』

『探検が終わればもう帰るだけかな』

そんな会話をしてから、六時間目終了のチャイムが鳴った。
これから担任の先生の話を聞いたら放課後だ。
先ずは何処を見て回ろうかな、と考えていると青峰君は筆記ではなく私へ向かって口から言葉を出す。

「最初は体育館に来いよ。
練習は見なくていいから」

そう言われたのはいいが、体育館とは何処の体育館だろうと首を傾げれば青峰君は体育館の位置を言葉にして説明してくれた。
それをメモに書き記して大事にとっておくと、担任の先生が前の扉から入ってきて明日の諸連絡と挨拶だけをして元来た道を歩いて行った。
青峰君は中身が入っていなさそうな通学鞄を持って早足に教室を出ていく。
すると教室の中は少ししか時間は経っていないと言うのにもう人は疎らになって残るは私と愛ちゃんと数名の男女しかいない。
私はメモを片手に愛ちゃんへ体育館の場所を聞いてから、荷物を持って愛ちゃんへ手を振ってから教室の出入口へ足を踏み出した。
廊下は誰も居らず、私一人が歩いているだけだった。
愛ちゃんに聞いた場所とメモを照らし合わせながら朝とあまり変わらない荷物を持って足を進めていく。
青峰君から練習は見なくていいと言われたから、体育館の入り口を見たらもう学校を見て回っていいと言う事だろうか。
青峰君の話の意図が分からないが、取り敢えずメモ通りの場所に着いた。
中学校なのに広いな、と心で思いながら真っ直ぐに進んでいくと誰かがそこに立っていた。
近付けば近付く程に誰なのかはっきり分かる。
偶然なのか必然なのか、私には分からないが風が頬を撫で、六時間目の緊張とは違うまた別の物が胸の中に響いた。


授業遊戯










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