はぜる



昼休みが終わって先程の事を思い出す。
優しく抱き締められて背中を撫でられた。
くすぐったくて嬉しくて少しそれを口に宿しながら床を箒で撫でる。
集まっていく埃を見つめながら食べそびれたカップケーキをどうしようと考えた。
あれからチャイムが鳴って紫原君と別れて、機嫌が良い愛ちゃんが戻って来て掃除の時間だ。
まだ笑っている愛ちゃんにどうしたのか尋ねてみれば「なんでもないよ」と小走りになり私を追い抜かしていく。
掃除熱心なんだ、と新たな一面を見て担当の掃除場所へと向かって今に至る。
結局家に帰ってから食べる事になるのかな。
悩みながらちりとりを取りに行こうと方向転換すると人にぶつかった。
すぐさま謝ろうと一旦その人の目を見ようとすれば、目の位置が高くにあり睨む様に見下ろされていた。
私は頭をフル回転させて今までの所業を思い返した。
今日は転校初日に玄関で転んだくらいしかない。
後は何かあっただろうか。
この青髪の男の子は確か私の隣の席にいた人。
まさか、と思い制服のポケットに入れた紙とペンを取り出して走り書いた。

「お前が、」

『すいませんでした!
私が転校したばかりに睡眠の妨害をするような真似をしてしまって本当にすいません!』

「・・・は?」

私が差し出した紙を見て青い髪の男の子は間を空けてから呆れた様な声を出した。
深く頭を下げているせいで表情は見えない。
前の学校と同じになってしまう事になるのだろうか。
それが脳裏を過り嫌な妄想だけが私を取り囲む。
目を固く閉ざすと上から声が降ってきた。

「睡眠妨害とか、お前律儀な奴だな。
もういいから顔上げろよ」

ゆっくりと頭を上げて、目を開ける。
面倒臭そうに溜め息を吐くその人は、今度は含み笑いを漏らした。

「しかしまあ、あいつがなあ・・・。
人の名前自体覚えるの駄目なのに」

一人で何かを言っている事が分からずに首を傾げているといきなり頭を撫でてきた。
今日で頭を撫でられるのは二回目の私には本当に理解出来なかったけれど、悪い人ではないと思う。
良い人でなければ頭に手を置かない。

「まあ、お前とのバランスが丁度いいのかもな、紫原には」

紫原君の名前が出てきて目を見開いた。
知り合いなんだろうか。
友達なんだろうか。
そんな些細な事でも気になって、新しい紙に書いて私の疑問を彼にぶつけてみる。
彼は私の疑問を読んでくれた。

「あぁ、そう言えばまだ言ってなかったな。
俺は青峰大輝で、紫原とは同じ部活やってる」

『部活?』

「バスケ部だ」

彼、青峰君に紫原君の意外な事を聞いて秘中で舞い上がる。
何をするにしてもあまり気が乗っていなかった紫原君が部活動をしている事に驚きと嬉しさとが混じり合って不思議な気分だ。
子供の成長を見ている母親は、こんな気持ちなのだろうか。
青峰君が私を見下ろしている。
「なるほど」と言っている様なそんな表情に再度首を傾げていると、私の背後から声が聞こえてきた。
振り向くと同じクラスの人だと言う事に気付くのにそう時間は掛からなかった。

「青峰、お前の担当場所はここではないのだよ」

「あ?んな別にいいだろ。
俺はこいつに用があったんだよ」

「掃除もしないで立ち話とは、人事を尽くしていないのだよ」

眼鏡を上げて話す同級生に挟まれて身動きが取れず、そして話にも参加出来ない。
どうしよう、と箒を握り締めて、思い切り勇気を振り絞って文字を連ねて眼鏡を掛けている彼へ差し出した。
二人の口論が中止される。

『すいませんでした。
話を進めて掃除の時間を削る様な事をしてしまっていたのは私の責任でもあります』

一度お辞儀をして今度こそちりとりを取りに行く。
残された二人は沈黙したままちりとりを手に持った私を見ていた。
視線に耐えきれず集めた埃をちりとりで取ってその場から逃げた。
私は人に見られるのが苦手なようです。





「緑間、あいつとさっき喋ったんだけどよ、相当に律儀な奴だぞ」

「俺もそう思ったのだよ」

二人で篠崎が去った方向を見ながら呟いた。
紫原はガキの頃のあいつを見て惚れたのだろうと予想が付く。
恋愛はよく分からないが、今でも子供な紫原にはそれがどういう物か分かるんだろう。
俺にはそう言う物が今少しだけだが分かりつつある。
緑間はまだまだ掛かるだろうが・・・。

「最近バスケ部の奴等が春だな」

「何だそれは?」

「・・・お前もさっさと気付いた方が身のためだぜ?」

そう言えば緑間は分からない感じを醸しながら俺に注意をすると自分の掃除場所へと向かった。
緑間みたいな鈍感は厳しいだろうが、紫原と篠崎は確実に相思相愛だ。
問題はいつ、どちらが想いを告げるか。
俺はまだ時間が掛かるだろうと推測する。
ここまでを見るまででも十分に面白い。
これからどうなるのかを遠くで見ている事にしよう。
俺は笑って屋上を目指して床を踏む。


はぜる














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