教室



今回は、と伸ばした前髪を分け、顔を出してお世話になる学校の為に登校しようとした。
胸を張って校門を潜ろうと決意までした。
けれど早く来すぎた私はまだ疎らな生徒の中で恥ずかしさに耐えきれず元の顔を覆う髪型にしてしまったまま職員室へと足を運ぶ。
私は誰かが私を見ていると言う被害妄想に捕らわれながら冷や汗を滲ませて進める。
駄目だ、結局私は変わってないと赤面した。





「教室はここだからね」

教室の前まで来て担任の先生は人差し指で教室を指した。
母から私の説明を受けたであろう先生は私の容姿も声に関する事も何も言わずに普通教室へと入れてくれた。
「声をかけるからその時に入ってくれ」と先に先生が教室へと入っていく。
数年前もこんな感じだった事を思い出して、緊張する。
前とは違う、そう復唱して心を落ち着かせると先生の「入って来なさい」と言う声が聞こえて息を呑んで扉を開けて入った。
全員の視線が私へ向く。
少し賑わっていた声が静かになった。

「えー、篠崎凜さんだ。
前の学校の環境にストレスを感じて声が出せなくなってしまったが、皆仲良くするように」

一礼をして顔を俯かせる。
皆の顔を見る事が出来なかったけれど、溜め息は今のところ一つもなかった。
それに酷く安心して先生が指定した席へと着く。
一番後ろの窓際から二番目だ。
左右には男女がいて、右には少し茶色がかった髪の普通の女の子で、左は青い短い髪で机に突っ伏して寝ている浅黒い肌の男の子だ。
大丈夫かな、と再度緊張すると右に座っている女の子が顔を近付けてきた。
驚いて硬直してしまう。

「私、中山愛って言うの。
よろしくね」

可愛い笑顔を向けてくる中山さんに、良い人だ!と急いで筆記用具と紙を取り出して文字を連ねる。

『こちらこそよろしくお願いします中山さん』

書いた紙を中山さんへと震えながら渡す。
文字を読んだ中山さんが笑いながら「敬語じゃなくていいよ」と言ってくれて心が暖かくなった。
この学校にいる人は良い人だと思って固まった顔が緩んだ。

「敬語も無しだからさん付けもやめようよ。
私凜って呼んでいい?」

笑顔が崩れない中山さんを見ながら、舞い上がりそうなのを抑えてまた紙に返事を書く。

『いいよ。私もあいちゃんって呼んでもいいかな?』

声を出せないのに呼ぶと言うのは間違ったな、と反省しながら中山さんは私の手を握って「いいよ!」と返してくれた。
嬉しくて涙が出そうになった。





それから休み時間の時授業の準備をする度に、周りがどっと集まって来て質問の嵐が始まった。
好きな物は?趣味は?前の学校どうだった?等の質問に頭から湯気が出そうになりながら紙に書いていった。
愛ちゃんは皆を止めようと必死だったけど波は収まらず、賑やかなままだった。
左席の男の子に悪いな、と思ってちらりと様子を見るも相変わらず眠っているようだった。
凄いと思ってチャイムが鳴るの繰り返しで、これが三回続いて今が昼休み。
何か疲れたな、とお弁当を出した頃に左席の男の子が立って教室を出て行った。
背が大きいところを見たらあの人を思い出してしまった。
今頃どうしてるのかな、と愛ちゃんと一緒にお弁当を食べながら考えた。
お弁当をちまちまと食べていると、愛ちゃんが時間割を確認しながら話し掛けてきた。

「次って国語だったっけ?」

その言葉に私も確認したら五校時に国語と表記されていたからゆっくりと頷いた。

「うわっ、どうしよう!」

と、急いでお弁当を食べ終わると片付けて、「教科書忘れたから誰かから借りてくる!」と言い残して教室を去っていった。
一人取り残された私はまたお弁当を食べ始める。
もうすぐで完食と言う所で、勢い良く扉が開け放たれた。
音に驚いたけど、お弁当から顔を上げる勇気も湧かず、黙々と食べた。
漸くして完食し、お弁当を仕舞う。
作ってきたカップケーキは愛ちゃんが戻ってきてから食べようかな、と思っていると誰かが私の席の前までやって来てしゃがみこんだ。
さっき入って来た人かな、と内心どきまぎして両手を握り締める。
自分が何をしたのか分からない恐怖に心拍数が上がっていくのに対して、言葉を紡がれたのは何処かで聞いた声で、思わず勢い良く顔を上げた。

「凜ちんだよね?」

引っ越す前の小学校での記憶が甦った。
高い身長で紫色の髪をした私の、想い人。

教室














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