気だるい朝を迎えて、光が差すベッドから起き上がって朝食が待っているだろう下の階へ移動する。
ゆっくりと身支度を済ませるといつもとは少し早い時間に起きていたようで、テレビを付けてみると部活のチームメイトが欠かさず見ていると言う番組があった。
占い番組のそれは軽快な音楽と共に流れる。
そして一位から順に発表されていった。

「あらら〜」

初めに出された星座は天秤座で、自分のそれだと確認出来た。
あまり占いは信じていないが一位とは気分が良い、と食事を始めた。

『一位は天秤座。
今日一日はハッピーな日に!
積極的に何でも行いましょう!
ラッキーパーソンは同級生』

一位の発表を終えたアナウンサーは二位から以降の説明をする。
そこまで見ると興味が無くなり、空になった皿をそのままに、テレビを消して鞄を持った。
学校へ行く次いでにコンビニへ寄って、お菓子を買おうとそこまで考えて玄関のドアを軽く押し踏みとどまって、今日見た夢を思い出す。
まさか、と考えつつも足を出して前へ進める。
昨日よりもお菓子を沢山買って行こう、何故かそう思って学校への道を進んでいく。



「紫原っち今日何かご機嫌っスね!」

昼休み、屋上へ上がって買ってきたパンを口に運ぶとそう黄瀬ちんが言ってきた。
バスケの事で話があるからと赤ちんに言われて来たのが間違いだったと思うのは心だけにしておこう。
口に出すと赤ちんが怖い。

「そう?」

「だっていつも授業中寝てるのに起きてたし、終始笑顔だったし」

珍しいっス、と昼食を食べながら黄瀬ちんが言った。
案外回りを見てるんだなと思いながら二つ目のパンを開けて頬張る。
甘い味が口の中に広がって食欲を起こさせる。
黙々と食べていくと、バスケの話が終わった峰ちんが話し出す。

「そう言えば、今日転校生が来たんだよな。
名前忘れたけど」

自分から話し出したのにあまり興味がない風にパンの袋へと手を伸ばす。
この時期に転校生は珍しいからと言う話題だろうか、よく分からないがさして興味が沸かないまま今度はお菓子の袋を開けた。

「名前を忘れるとは、だからお前は駄目なのだよ青峰」

「駄目かどうか分かんねえけど、顔は覚えてるぜ。
つか何でお前が名前知ってんだ?
エスパーか」

「同じクラスだろうが!
因みに、その転校生はお前の隣の席なのだよ!」

眼鏡を押し上げながら怒鳴るミドチンは牛乳が足りていないと思う。
一人だけ弁当に箸を付けるミドチンは話しを続ける。

「全く、これだから人事を尽くしていない奴は「お、卵焼きくれよ」

「話を聞け!」

「まあ取り敢えずあれだ。
変な奴だったな。
喋んねえし、前髪で目元隠してるし、暗いし」

喋らない以外はどこも可笑しい所はない様な気がするけれど、肝心の名前が出てこない。
そこまで印象を聞いたのだから名前ぐらいは耳に入れたい物ではないだろうか。
俺と同じ事を思っていたのか、黄瀬ちんがミドチンに疑問をぶつけていた。

「ところで名前は何なんスか?」

「へー、黄瀬気になんのか?」

「名前ぐらいは聞きたいじゃないっスか!」

「因みに女な」

「何を今更!?」

弁当の蓋を閉めたミドチンは小さく合掌すると、「やかましいのだよ」とまた眼鏡を上げて一喝した。
峰ちんが黄瀬ちんを茶化す中、疑問に答えるべくミドチンが口を開いた。

「答えたところで誰かが反応するとも思えないのだが」

「大丈夫っス!
後で見に行くんで!」

何が大丈夫なのか分からないが、俺の隣でさっきから一言も話していない黒ちんが初めて言葉を紡いだ。
何か言い合っている二人に届くぐらいの声音だ。

「あの、結局お名前は?」

「そうっスよ!
で、名前は?」

全員の視線がミドチンに集まる。
ミドチンはごほんと咳を一つして口を開いた。

「篠崎凜と言う名前だ」

懐かしい響きに目を見開く。
今朝の夢を再度思い出して、体が硬直した。
皆は分かった様にまたダラっとした雰囲気で楽な姿勢を取る。
俺は固まった体のまま質問した。

「喋らないの?」

「何らかのショックで喋れないと聞いたが?」

「髪の長さは?」

「前髪が目元過ぎで、後ろが腰過ぎの黒髪だったぜ?」

隣で「紫原君?」と言う声が聞こえたのと同時に勢い良く立ち上がった。
バスケの話だけをしていた赤ちんが言葉を出した瞬間に俺は走り出した。
バスケをしていてもそんなに動いた事の無い速さで階段を降りていく。
途中でさっちんに会ったけど気にしなかった。

「遅れてごめんね、ところでさっきむっくんが凄いスピードで走ってったんだけどどうしたの?」

「よく分からないのだよ」

「春だ」

「春ですね」

「春っス」

「気にする事はない、只の春だ」

「は?」

屋上でこんな会話をしているとはこの時の俺は全く知る由もなかった。

















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