「いや!来ないでください!!
私に近付かないでください!」

ジリジリと迫り寄ってくる男性6人。
何故こうなってしまったのか。
私は焦る思考と共に落ち着きを戻しながら思い出してみよう。

・・・・・・・・・

「どうしよう、また遅刻しちゃうな・・・。」

自宅から人通りの少ない路地を通り抜け、正午。
日は真上で快晴が続く。
パッショーネの護衛チームに新人さんが来て早数日。
私はいつもの通りに皆がいるレストランへ足を運ぼうとしていた。
本当に、いつもの道を使って。
ナンパや馴染みの人達の声を聞き流し大通りを駆ける。
そしてそのまま真っ直ぐに行けば何もなかったのだ。
そう、ここからが、私の不運の連続だったのだ。
初めに、道路向かい側にいるお婆さんの財布がスられるのを発見する。
見過ごすことなんて私には出来はしないので、スタンド能力を使って犯人を捕まえる。
その際に信号機が壊れて道路は渋滞。
二つ目に迷い猫との遭遇。
親猫を探す為に彼方此方を歩き回って30分後に任務は完了。
やっとの思いで皆が待つ場所へ行こうと足を向けようとすると、道に迷う。
人に尋ねながら急いで行けば、子供同士の喧嘩を目の当たりにする。
泣きじゃくる理由を聞いて宥めていれば更に時間は減る。
ボロボロになりながら後数十メートルで着くという時に派手に転ける。
それだけで、泣きたくなった。

「うぅっ、ツいてない。
非常に・・・。」

埃を叩きながら身なりを正してレストランへ。
皆もう集まっているんだろうなと、申し訳なく感じながら中へ入った。

「どうした?
遅かったな山添。」

「不運に見舞われました・・・。
すいません、遅れて・・・。」

「山添っていっつもそうだよな〜。
なんていうかさ、運に見放されてるって言うかよぉ。」

ナランチャの言葉がグサリと心に刺さる。
確かにナランチャの言うとおり、私はあまり運が良くない。
席替えをする時にいつも先生の前になってしまう事のように私に神は味方をしてくれないのだ。
空いた席に腰を下ろして溜息を吐く。
私のお向かいは新人さんのジョルノ君だ。
目が合って少し微笑みを返す。

「そう言えば、山添は他人に触れると吐いてしまう体質なんでしたっけ?」

アバッキオが注いでくれたお茶を一口飲むと、ジョルノ君が会話を零した。
それに嫌な予感がして、ガタリと肩が揺れる。

「どうやって普段過ごしてるんですか?
他人に触れなければ生活は難しくないですか?」

「えっ、あっ、あぁ、いやぁ・・・。」

言えない。
今まで皆触れて来なかった話題が今この形で、この厄日に限って出るとは。
他の皆が、そうだと私の返事を待つ状況が尚辛い。
言えない。
人に会わない為に普段路地裏を使っている事とか、買い物もお釣りの手渡しは受け皿を絶対に使う事とか、動物の相手をするのも、ペンや木の枝で触らないように誘導して和む事も何もかもを言えない。

「それ程までに言えないんですか。」

「フーゴ、それ以上聞かないでください。」

「でもそれでは不便だろう。
数秒でも長く他人に触れるように耐性をつけておくべきじゃあないか?」

「アバッキオ、それ以上言わないでください。
私はなんとかやっていけますので・・・。」

ジリジリと、迫り寄ってくる男性6人。
イタリア人ナンパ男よりもタチが悪いんじゃあないかってくらい今日はしつこい。
どうしよう。
目を反らすのも段々しんどいものがある。

「今の内に慣れておいた方がいいと思うぞ?」

「ブチャラティ、私は本当に大丈夫ですから・・・。」

だから、近づいて来ないでください。
吐き気が込み上がってくるじゃあないですか!

「皆、山添が吐かない程度に抑えろ!」

「いや!来ないでください!!
私に近付かないでください!」

これが、冒頭である。

「うっ、吐き気が・・・。」

「我慢だぜ山添。
人に触るなんてこの世で一番どうでもいい事なんだからよ!」

「私にしたら死にも値する重要な事なんですけど・・・。」

心底私は嫌な顔になっているだろう。
吐き気を必死に我慢している中で私の肩を服越しに掴んでいるフーゴが耳打ちをしてくる。
なんだろうと黙って聞き入る。

「一生このままだとミスタと抱き付く事は疎か、手を繋ぐ事だって出来ませんよ。
それでもいいんですか?」

フーゴの言葉に脳が考えるのを止め、そして一気に爆発して顔が真っ赤になる。
肩を掴まれている為、しゃがむ事が出来ずに皆に見られっぱなしだ。
これは、非常に恥ずかしい。
皆も私の気持ちに一部を除いて気付いているから顔がニヤニヤと企んでいる顔になっている。
嫌な予感は当たっていた。

「い、いいんです、今はこれで・・・。」

「良い訳ないだろう。
一生孤独に過ごす気かお前は。」

「孤独って・・・。」

アバッキオの言うとおり、になるかもしれない将来を思うと気持ちが沈んできた。
そう言えばそうだな、と考えながら改める。
確かに、そろそろ人と交流をするべきなのかもしれない。
決意を固めて、吐く意識を切り離せばいい。
上手く行くはずさと、ポジティブになろう。
私は、今日変わる!

「分かりました!
私は吐きません!」

「よく言ったぞ!」

「頑張れ!お前なら出来るさ!」

「ならミスタ。
山添の手を握ってください。」

ジョルノ君がミスタの背中を押して私に近付ける。
ジョルノ君も私の気持ち分かっているんだな、と感心した。
ブチャラティは気付いてないのに。

「あ?なんで俺なんだよ?
別に近くにいるナランチャとかフーゴで良いんじゃあないか?」

「ミスタ今日なんにもやってないだろうがよぉ!
山添に協力ぐらいしろよな!」

意外とナランチャは人の恋らしき感情に気付くから、こう言う嘘は上手い。
そこに感謝と敬意を示すと、彼は中々楽しそうに笑う。
と言うか、回りも笑っている。
恥ずかしいよりも気恥ずかしい。

「ミスタ、私、頑張りますから。」

「おう。
気楽に頑張れよ。」

私は、手を差し出した。
素手の、なんの細工もない普通の手だ。
そんな手を、ミスタの銃を握る無骨な手が握る。
ぐっ、と内側から何かが込み上がって来るのを感じた。
駄目だ、抑えろと念じる。

「・・・山添?」

「だ、大丈夫ですか?」

「おい、なんとか言えよ・・・?」

「まさかとは思うが・・・。」

「まさかかもしれませんね。」

私は微笑んだ。
かのトラウマが私にこんにちはしたのを感じながら、口の端から溢れ出る今朝食べたフレンチトーストとサラダが異臭を放ちながら出てきた。
ごめんなさい、また店を汚す事になって・・・。

「うっ、ごめ、うえおろろろろろっ!!」

「謝りながら吐いた!!」

「おまっ、どんな状況でも礼儀正しいよな!?
大丈夫かよ!?
しっかりしろ!」

私のゲロを受け止めながら背中を摩ってくれるミスタにときめきを感じながらこの気持ちを伝えようと口を開く。

「ミスタ、あの・・・。」

「なんだよ?」

「ありがっ、うぇろろろろろっっ!!」

「あーあー、無理すんなよ。」

尚も気分を和らげてくれるミスタ。
周りはややパニックになっており、ナプキンを手に取ったり、ウェイターを呼びに行ったりと行動は様々だ。
・・・まだ私にはこれが幸せらしい。








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