「私のお願い聞いてくれる?」 「報酬は?」 こんなやり取りを何度繰り返しただろうか。 いくら聞いて返事を返し、貰っても満足など出来はしない。 それはつまり、一抹の不安から来る怠惰と億劫さである。 奏も恐らく同じで、飽きもせずに何百、何千と、耳を傾けてはその甘い乞食に自らも成り下がるのだ。 独りが嫌だと、昔奏は応えた。 正確に言えば俺と出会ってからその思いは芽生えたらしい。 憐れ極まりない。 人間を見殺しにした悪党にその清い身を捧げているも同然だ。 「私に出来ることならなんでも。」 「OKだ。」 かわいそうに。 至って純真に、潔白に、保ってまだまだ神に愛されていたかも知れぬ。 それが、よりによって、こんな俺なんかに・・・。 「ずっと一緒にいていい?」 「好きにすればいい。 それと、俺からも言いたいことがある。」 「どうぞ。」 「俺もお前に誓おう。 なんでもする。 その代わりと言ってはなんだが、側にいろ。」 変わらない表情で。 「勿論。」だとでも言うように、俺の背へと張り付いて来る。 衣服越しに感じる熱が酷く懐かしく、心地が良く感じてしまうのは、明らかにこの女に毒された証拠であることは一目瞭然だ。 実に痛々しく明瞭である。 我ながら柄ではない。 「利害の一致?」 「毎年だろう。」 愉快になりつつ、静かに呼吸を施す。 まだ生きていると実感する。 どす黒い感情が胸の内にあるものを、山添がいるとすっ、と軽くなるのはコイツが紛れもない人間だからだ。 そうして俺も人間である。 これが実に理に叶いすぎているが、今はこれで良いだろう。 そう。 柄にもなく、幸福だからだ。 ←→ |