とある飲食店の一角で大量の料理に囲まれながら食を続ける小柄な女性、名を奏。
彼女と出会ってからたまにではあるものの二人でこうして昼を共にすることがあった。
大統領の側近である俺は、食事を誰かと共にするなど滅多になかったのだが、彼女の場合は別だ。
殆ど俺の一目惚れに近い、所謂惚れてしまったそういう感情でいつも彼女に接しているのだが、いつだって彼女は俺の話に耳を傾けない。
食事が彼女の至福であるから仕方がないのだが、まさか毎回の如く俺の真剣な告白を受け取ってくれないとは思わなかった。
無視とは違うものの男としてはやはりショックで仕方がない。
彼女との食事は嬉しいに越したことはないが、この時間は本当に食べることしかしないのである。

「奏、俺は本当に君のことが好きだ。
小柄なその体型でよくそれほどの量の料理を腹に収めることが出来るな、と感心さえしている。
君のそういうところに惚れたのが第一だが、勿論他にも魅力はある。
いつも花の咲くような笑顔で接しているところや、目を開いた時の深い深緑の真っ直ぐな視線で見つめてきてくれるところ、決して姿勢を崩さない君の背筋だって魅力の一つの世界だ。
他にもまだまだ君の好きなところはある。
寧ろ言い足りない程愛している。
俺は奏の全てを愛しているんだ。
だから俺と付き合ってほしい、そういう世界も有りだとは思わないか。」

「ん〜!!!このパフェ最高!!!
クリームがいっぱい乗ってる割にどっかりとお腹に溜まらないし、果物も豊富で女の子には堪らないかも!!
あっ、マイクさんも一口どうですか?
チョコとアイスの組み合わせも絶妙で本当美味しいんですよ!!」

はい!と差し出されたスプーンに乗ったアイスが溶けて一滴落ちる。
今日も俺の告白は受け取ってもらえなかったか、と落胆するも彼女には悟られないように唇を近付けて彼女のアイスを咀嚼する。
軽い間接キスはするものの、俺の言葉を聞いてくれないのは彼女が悪いのか、それとも俺のタイミングの問題なのかそれが分からない。
甘過ぎる甘味に舌鼓を打ちながらにこにこと可愛らしい笑みを浮かべる彼女を拝む。
仲は良好のハズなのだ。
だが関係は進まず付き合えもしない。
どういう悲劇だ、と天を呪いたい気持ちでいっぱいだった。

「どうですか?」

「甘過ぎる世界だ・・・。」

「えぇっ!?そうですかねぇ・・・。」

そう零しながらパフェを完食した彼女は最後に水を飲んで一息をつく。
満足したのかすぐさま立ち上がって「行きましょうか!」と俺の手を取る彼女の手は暖かい。
そう、間接キスもし、手を繋ぐ関係なのに、と小さく息を吐いては頭を振る。
次があるさ、と自分を慰めながら会計を済ませようと彼女の食した分の金額を出そうとすれば彼女に止められた。
これもいつもの事だが、彼女は俺に奢らせてくれない。
もう何十回と繰り返される行動と注意が何気なく好きだったりする。

「マイクさん!お金は私が払うので大丈夫ですよ!」

「今日ぐらいはいいだろう?
いつも別々に払っているし、今日ぐらいは奢らせていただく世界だ。」

そう言えばぷう、と効果音が付きそうな程頬を膨らませる奏は珍しく怒っているようだ。
怒っていても可愛い、と思う程俺は彼女にぞっこんしている。
出来るなら彼女の色んな表情を間近で眺めていたい。
もっと触れていたいと、思考が飛んで行く俺に彼女の高い居心地の良い声が降り注がれる。
はっ、として本題に戻った。

「自分で食べたものは責任を持って自分が払う!
それが私のモットーですよ!!」

そうして本当に自分で食べた分だけの金額を払う彼女を上から見下ろしては片手で顔を覆った。
媚を売らず我が道を行く彼女が彼女らしくてとても安心しながら惚れ直した。
それをブラックモアに話したところ、「貴方のツボが分からないです。」と怪奇な表情をされながら一刀両断されたことは一週間経った今でも記憶に新しい。





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