「私はね、承太郎。
アンタの賭けてる方に賭けたのではなく、これは私自身の見解から導き出した答えだと、そう言っているのよ。」

「言われなくても分かってるぜ。
俺もお前も決めたことには嘘偽りなく、自分の作った道の上で生きてんだからな。」

並ぶ真剣な眼差しの後ろからそんな二人を見つめる僕は緊迫とした雰囲気の中、言い知れぬ違和感を胸に抱きつつ二人が見つめる視線の先を見た。
今正に激闘が繰り広げられる、そんな瞬間だった。
戦いの合図が掛け声と共に振り下ろされる。
そして突然奏が立ち上がった。

「おっしゃあ!行け!!
凪ぎ倒せ!!押されるな押されるな!!」

大きな張のある声を、恐らく腹の底から出しているに違いない。
耳に響くドスの効いた声は中々一般女子の口からは出てこないのではないだろうか。
テレビの中で相撲を取っている力士は未だ掴み合っている。
黙ってその光景を見る承太郎とは全く正反対の彼女は落ち着く気配は微塵もなかった。

「オラ!どうした!?お前の力はまだそんなものじゃあないだろ!!
かっ飛ばせ!!お前なら出来る!!」

「奏!まず落ち着こう!!
かっ飛ばしたら反則だからね!
普通に座って観よう!?」

僕の必死な呼び掛けにも反応を見せない二人を心の隅で一回殴ってやろうか、と思いはしたが我慢するに限る。
二人はただ相撲中継に必死なだけだ、と自分を諌めた。
そうするしかなかった。

「行け行け行け行け行けあああああああああああああああ!!
行ったああああああああああ!!
勝ったああああああああああ!!
よっしゃああああああああああ!!」

僕が悶々と自分を抑えていたらいつの間にか試合は終わったようだ。
ガッツポーズを取り、承太郎と一緒にピシガシと喜んでいる。
はぁ、漸く終わったのか、と胸をなで下ろす。
これで平安だ。

「いいものを見せてもらいましたな、えぇ承太郎さん。」

「俺は初めからアイツが勝つと信じていたぜ。」

「何故相撲中継でワールドサッカー並みの盛り上げを見せたのか僕には分からないよ・・・。
相撲は好きだけどさ・・・。」

そう呟きながらも未だに喜んでいる二人を眺めていればなんだかもうどうでも良くなってきた。
きっと二人にしか通じないなにかがあるのだろう。
僕には分からないが。

「てな訳で典明と承太郎、相撲取ろうぜ。」

「速攻で負ける自信がある、っていうか君も参加するのかい?
稀に見ない事件だよ?」

「しょうがねえな・・・。」

「承太郎、君もしかしてノリノリじゃあないだろうな?
君が参加するのが一番の問題なんだよ?」

僕以外が立ち上がり、指を鳴らしながら構えを取り始める。
相撲ではなく、ボクシングポーズである二人に、「さっきまで相撲を見ていただろう!なんだその構えは!」と叫んでしまいたい。
しかし口を開いても無駄だろう。
この二人は人の話など聞きはしないから黙って距離を取った。
どうにでもなってしまえ。
頭を抱えた瞬間、巴投げをし出した承太郎に奏が悲鳴をあげるが、ため息しか出ないので取り敢えず見守った。





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