行き場のない手を取ってくれたのは、いつだっただろう。
歩けもしなかった足を前に進めてくれたのは、どんな理由だったのだろう。
恐らく目の前にいるであろう恩人に手を伸ばせばそっ、と手に触れてくれる暖かみに笑みが灯る。
あぁ、この人の手が好きだと自覚したのもいつからだっただろうか。
私を助けてくれたこの人を忘れたことなんて一日もなかった。
顔は見れないけれど、頬に触れれば自ずと視えてくる顔が非常に好きでいつだって触り更けていた。
ふとしたことでドキドキと高鳴る心臓も、過去に合った出来事を思い出して喚き散らす機から見れば変なところも引っくるめて私を救い出してくれた貴方が好きなんだと、貴方は気付いていてくれているだろうか。
少し体温の高くなった手から早めの鼓動が伝わる。
あぁ、なんとかしなくては。
小心者な彼に、握っている手を強めて出来るだけ視線を合わせるように努めた。

「大丈夫?」

私の問い掛けに驚いたのか揺れる体に、こちらも多少なりとも驚いてしまった。
平静を保つ為にも息を吸う。
貴方を困らせたくなんてないから、って理由もきっと分からないんだろうけれど。

「き、緊張してて・・・。」

真っ暗な視界の中に投下されたセリフ一つに再度笑みが漏れた。
窓に落ちる雨音が聞こえ始めてからこれに緊張しているのか、と納得して彼を抱き寄せる。
びくり、と響く私より大きな身体を強く抱き締めながら背中を摩る。
昔母がやってくれたように出来ていれば幸いだ。
加速し続ける鼓動に耳を傾けて目を閉じる。
体温のある彼は熱い程に高くなっているが、それがなにより私は好きだった。

「愛唱さん、大丈夫よ。
私がいるんだもの。
雨なんかへっちゃらよ。」

「意味が、ちょっと違うんだけど・・・。」

意味深な言葉が耳に入った後に私へと回される腕が嬉しい。
些細なことだけれど、前に私を助けてくれた時みたいに今度は私が貴方を助けてあげれたら、なんて夢みたいなことを思う私の真実を貴方が知れば、貴方は幻滅してしまうだろうか。
疑問ばかりで嫌になる私だけれど、いつでも側にいてくれる貴方が、やっぱり好きだなんて、口に出して言えない私も小心者だ。





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