たまに、何故自分が生まれて来たのかを思い詰める時がある。
その度に俺はどうしようもない人間なんだと呼吸が苦しくなった。
父も母もいない。
学校からも見放され、認めてくれる人もいない。
汗が滝のように流れ落ちてその場に座り込む。
瞼も下がって来た。
視界が邪魔される。
暗くて先の光も見えないような感覚に陥り、希望は随分前に堕ちたきりで目の前に現れない。
なんと孤独なものか・・・。
涙も流れ、汗と混じる。
誰か俺を救ってくれ。
この願いは果たして届くだろうか。
星の隅っこで野垂れ死そうな憐れな男の願いなど・・・。

「リキエルだいじょうぶ?」

と、突然降って来た高い声。
微笑みを含んだ間延びしたこの喋り方を俺は知っている。
持ち上がらない瞼の先でワンピースの裾が広がって落ちて行くのも知っている。
幼い頃からのただ一人の友人だと胸を張って言える自信もある程に、一緒にいた時間は長い。
コイツも友達は少ない方だろう。
お互いがお互い似たような関係だった。

「リキエルゆっくりいきをすったほうがいいよー。
だいじょうぶだよ、わたしがちゃんといっしょにいるからね。」

ぎゅっ、と汗まみれな手を気にもせずに指を絡めて握る。
更に額もくっつけるものだから益々心配になった。

「き、たない、だろ・・・っ。」

「なんでー?」

いくら友人でも他人の汗を直に触れるのは嫌なものではないか。
息を吸うのが僅かに軽くなった。
なんとか足にも力が入る。
立ち上がろうと深呼吸を一つしては、目を開く。
未だドアップで視界に入り込む奏に声を荒げた。

「だっかっら!
そんな他人の分泌液なんか気持ち悪いだろう!!
あと近い!一旦離れろ!」

「うええぇぇ、なんでええぇぇ!」

組まれた指はそのままに顔だけを離すと奏は眉を八の字に下げて呻き声らしき声を上げながら後ろへ仰け反った。
全く恥ずかしいヤツめ。
コイツを見ていると先程悩んでいたことがバカらしくなる。
はぁ、とため息を吐いた。

「えええぇぇ、リキエルのだったらきもちわるくなんてないのに・・・。
それにたにんだなんてひどいよ!」

「えっ、あぁ、まあそれについては正直に謝る。」

確かに友達に他人と言う言葉は傷がつくものだ。
悪いことをしてしまった。
頬を膨らませながら怒っている奏は未だに俺の手を握っている。
まぁ、かく言う俺もこの手を離しはしないのだが・・・。
体調も良くなり、汗も引いて、漸く立ち上がった。
なんだかんだ言って、奏が側に居てくれる時は発作が治るんだよな、と改めて奏を眺める。
不服な顔をする奏の頭をゆっくりと撫でた。

「なんか奢ってやるから笑えよ。」

俺より低い頭が見上げて来る。
途端に笑顔になる奏に現金なヤツだなと声を掛けそうになって慌てて口を閉ざす。
危ない、また面倒くさいことになるところであった。
言葉の代わりにその口角が上がる口を軽く引っ張ってみたが反応が薄い。
怒ったり笑ったり反応がなかったり、忙しいヤツだ。

「じゃあリキエルもわらってね!」

なんだそっちか、と今日何回目かのため息を吐いた。
現金なヤツ、と言うのは取り消そうと思う。
いつもいつも奏は俺が嬉しいと思う言葉を言ってくれる。
口元から手を離してもう一度頭を撫でた。

「この可愛いヤツめ!」






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