変な体質に生まれてきてしまったものだ、と思う。
体を巡る酸素はふとした瞬間に私を亡き者にしてしまう。
口や鼻から繰り返し出し入れする、呼吸という行為に甚だ疑問に思う。
何故あんなにも生物は容易く、当たり前のようにしているのか。
まず何故酸素を定期的に吸わねばならないのか。
全く鬱陶しいことこの上ない。
ありがたみを持っていただきたいものだ、と毎日のように命を落とす生物全般に問いただしたくなった。
一呼吸するのにも神経を使わなくてはいけない妬ましい体を呪いたくはなるけれど、私を産んでくれた母には感謝する他ない。
敬愛と、尊敬と。
色々な思いが母へと降り注がれる。
不便だが、可愛い私の体だ。
一つ息をした。

「ごめんなさい。」

そう手を繋いでくれている相手に零してみる。
なにもせずに、ただ空間をぼーっと眺めていた私と彼は右手と左手を故意に繋いでいる。
私の特異な体質のせいでもあったし、ただ私がこうしていたいだけなのかもしれない。
全く、人の温もりの中でしか生きられない私の体は不便極まりない。
迷惑をかけてしまう。
それが昔から嫌で、もう一つ、笑えないのも辛い生き方であった。

「迷惑は掛けるし、役には立たないし、表情筋も死んでるし。」

同じ所を何十分も見続ける。
変わらない。
隣にある暖かさも変わらない。
あの時からずっと変わらない。

「つまり、私が言いたいのは、」

「コーヒーでも飲もう。」

低い柔らかい声が漂う。
話を切られても嫌悪感はなかった。
これがこの人の、リンゴォの不思議なところでもある。
ただただ柔らかい、そんな印象。
なにもしない私は彼との相性が良いと勝手に思い込んでいるが、彼はどうだろうか。
彼も、そう思っていてくれたら、それは嬉しい。

「君が淹れるコーヒーをとても気に入っている。」

些細なことだけれど、私を必要にしてくれる彼を笑みを灯さずに感謝する。
それは母に対する敬愛のように。
または母とは違う愛情をもたらすように。

「ありがとう。」

ありがとう。
また零す。
溢れる。
感情が。
言葉が。
留まる事はまだ知らない。
私達はただ静かに、見つめる。
窓の外を。
また、自分の中を。
光が窓から射し込んだ。
まだ一日は始まったばかりである。








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