「ミキタカ君一緒に帰ろー!」

廊下から教室に身を乗り出すように覗きながら、人の少ない部屋の中にいるミキタカ君に声を掛けた。
転校して来たミキタカ君とはクラスは違えど仲が良いのは仗助君達との繋がりがあるからだ。
私の友達である仗助君はミキタカ君の事を変な奴と言いつつ私に紹介してくれたのがキッカケだった。
私も第一印象が不思議な人だと思ったから仗助君の言葉には未だ否定はしていない。
最初にミキタカ君が自分は宇宙人だと言ったのには驚いたけれど、私は今でも頑なに彼の言った事を信じている。

「はい。
少し待ってくれますか?」

嫌な顔一つせずに少しだけ口角を上げて準備をする姿が好きで、いつもそれを黙って見ているのが日課だったりする。
誰にも言った事はないけれど。
短い時間で支度を済ませたミキタカ君が歩み寄って来てくれただけでにこやかな気持ちになる。
隣を歩いて玄関先までを歩いているとふと、気付いたことがある。
宇宙人であるミキタカ君はあまり地球が分かっていないからなのか、地球人である私にはそれが気になった。

「ミキタカ君寒くないの?」

最近の杜王町は徐々に寒くなってきている。
生徒を見るとまだ疎らだけれど防寒具を着用する人も増えて来たし、コタツも出しているところは出している。
息を吐くと若干白く、風も冷たくなり、夜が来るのが早くなった。
いくら制服に護られているとは言え出ている肌は見るからに寒そうである。
寒がりな私は早くもマフラーを巻いている。
仗助君達から「さすがに早ぇよ。」と言われてしまったけれど仕方がないと思う。
寒いものは寒いんだもの。

「寒い、ですか?」

「私は寒いよ?」

宇宙人だからきっと故郷と地球との外気の温度が違うのだろうが、見ているこっちは寒い。
首を傾げているミキタカ君に思わずしゃがむようにお願いした。

「ミキタカ君ちょっと屈んで?」

「?はい。」

「よいしょっ。」

自分が巻いていたマフラーをミキタカ君の首に巻き付ける。
ミキタカ君は驚いたように目を丸くしていた。
私は逆に満足する。
私は寒いけど、これで見る分には温かくなったぞ。
鼻がくすぐったくなって、くしゃみが一つ飛び出た。

「これは、温かくなった気がします!」

「そうでしょ!
多分ミキタカ君寒かったんだよ!」

「でも、奏さん、冷え性と言う病気ではなかったですか?」

寒いでしょう?と聞いてくれるミキタカ君は優しいと思う。
確かにミキタカ君の言うとおり寒い。
でも私はこれで良いのだ。

「心が暖かいから別に良いよ。
そのマフラー、ミキタカ君にあげるね。
寒いと思ったら首に巻くんだよ?」

笑って言えば、まだ分からないのか疑問符が付く返事を貰った。
宇宙人も地球人を相手にするのは大変だな、と他人事に思う。
私は一緒にいると楽しいけどね。
ミキタカ君はやっぱり優しいし。

「でも寒いでしょう?」

人が少ない街中を歩いていると少しの間を持ってミキタカ君が前を向きながらそう言った。
私も前を見て「寒いよ。」と応える。
心が暖かくてもやっぱり体感温度は低いままだよね。
ついうっかり。

「手を出してください。」

「?うん。」

ミキタカ君が私にお願いするのは珍しく、その珍しさにやられ左手を差し出した。
するとミキタカ君が前に向けていた目を、今度は私に向けながら右手で私の左手を掴む。
驚いて手を引っ込めそうになった。

「温かいですか?」

「え、うーん。
ミキタカ君って普段から冷たいから別に温かくはないよ?」

「そうですか。」

「うん。」

正直に言ってもミキタカ君は手を離そうとはしなかった。
それよりも先程の力より若干力を込める右手に、私も同じくらい握る。
温度が一つ高くなった気がした。

「寒いねー。」

「そうですね。」

他愛もない会話を手を繋ぎながら帰路を歩く。
私達は自然と笑顔になった。
これがまだ続けばいいと思うのは、やはり誰にも内緒だ。






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