さっきから後ろで荒い息を繰り返されているのが嫌って程聞こえる。
気にせず歩き進めていたがもう限界だった。
耳障りで、心なしか空気も汚染されている気がする。
眉間のシワがいつまで経っても取れないのはこいつのせいであると決め付けてもよさそうなぐらいだ。
足を止めるとすぐ近くまで来ては同じく立ち止まる。
方向を前方から後方へ、体ごと向けばそいつは超がつくほど至近距離にいた。
先程の行動からもそうだが、軽く引くレベルだ。
そいつ、まあ一般で言うストーカーであり、正しく俺は今の今まで付けられていた訳だ。
至極迷惑な顔をしても効果はまるでない。
ニコニコと笑い、動悸が激しいのか手を胸に当てている。
もうここまで来ればストーカーも清々しい。
ため息が出る。

「はいため息いただきましたあああああ!!!」

「五月蝿い、黙れ、近寄るな、祖国へ帰れ。」

「はあぁぁ、なんという暴言の数々・・・。
たまらん、実にけしからん!」

近くで騒がれると頭に響く。
何故こんな奴に付きまとわれているのか薄々勘付いているようで気付きたくもなかった。
多分あれが原因なのだろう、と自分でも思えるぐらいにまでは成長出来ている。
信じたくはないが。
もう一度ため息を吐くと、ハアハアと顔を紅潮させながら荒い深呼吸を繰り返すこの日本から来たというカエデは世界中どこを探してもここまで気持ちの悪い女はいないと豪語出来る。
今も、「あぁ、アバッキオさんが吐いた息を私が吸うなんてそんなDNAを越えた新たなる新境地。
交配よりも深い快感。
私とアバッキオさんは今正に一つとなって世界に存在している・・・。
ディ・モールトベネええええ!!」などと訳の分からない事を一人で勝手に叫んでいる。
日本人は奥ゆかしい性格が多いんじゃあないのか。
なぜこいつだけこんなにも変態なんだ。
詐欺だと誰かにぶちまけたかった。

「アバッキオさん!
結婚しましょう!
好きです!
恋人になりましょう!!」

「順序が全て逆だ!
出直せ!」

そう言えば体をくねらせる。
恥ずかしいからやめろ!
街のど真ん中で奇妙な行動をとるんじゃあない!
年齢は俺と同じぐらいだと推測出来るし、良い年した大人がとれるべき行為ではない。
決して。
俺は奏についてなにも知らないが、奏は俺について知り尽くしていると言っても過言ではない。
それは恐らく奏のスタンド能力が原因だろう。
しかし俺を追っているにしてはスタンド能力については口を開いた事はない。
不服が胸に積もる。
俺が知っている奏と言う女の情報は、黙っていれば可愛い顔と黙っていれば立ち振る舞いの良い一般のやつだってことだけだ。
あとは知らない。
こいつの言っている事は全て真実だ、と言うのも情報か、と頭の隅で思う。

「アバッキオさんアバッキオさん!
デートしましょう!デート!」

無理矢理俺の腕を掴んで歩かされる。
いつもいきなり過ぎて驚くが、慣れつつある。
そんな自分が怖くもあるが、ただ一つだけ言っておきたい。
こいつの思考回路は一生をかけても決して読めないだろう。

「アバッキオさん!」

「うるせえ。」

理解し難い。









- ナノ -