天気の良い昼下がり。
洗濯物を干し終わってまったり畳の上に寝そべってまどろむ。
和室良いなあ、日本良いなあとついつい瞼が落ちるというところ。

「あ。」

すぐ近くで吉良さんの声が聞こえるけど気にしない気にしない。
本当に気持ちいいなあ。
畳最高じゃあない「げごぶぅぅっ!!?」

機嫌が良くなった時に腹部に激しい衝撃が走る。
そうまるで無抵抗なサンドバッグにボディーブローを容赦なく当てるかのような、そんな痛みだ。

「ボディーブローではなくエルボーだがね。」

「がわらないッッ!!
いだいでずよッッ!!
ごうがばづぐんでずよッッ!!」

あまりの痛さに涙によだれ、その他諸々の体液が穴と言う穴から絞り出てくる。
これはまずい。
眠気以上になにかが目覚めようとしている。
日本語が成り立たない。
しかしこれは私のせいではないと豪語したい。
あの冷静な吉良さんがこの世の物ではない物を見る目で私を見ているのは反論したいが、酸素が回らない。
取り込め酸素!

「ざんッゾ!!
だりな、い!!
じぬ!じぬ!!!」

「君は酸素よりもう少し女らしさを取り込むべきだ。」

「うるぜぇ!!
ぞもぞもなんでエルボー!?」

未だに私の目を直視してくれない吉良さんに非難の目を浴びせるも効果はなかった。
吉良さんは明後日の方角を見ながら言う。

「躓いたんだよ。
足がもつれて、丁度ここに君がいたから私は助かった。」

「こいつ、身寄りのない女子高生を盾にしやがったのか。」

「失敬な。
君のその肉付きがいい腹なら大丈夫と信じた訳だ。
良かったじゃあないか。
信用を得られる人間で。」

「さり気なくデブって言われた気がする。
解せぬ、解せぬぞ。」

のたうちまわっていた体を漸く起こして正座を取る。
吉良さんを真正面から見ればいつもの吉良さんに戻っているようでもある。
そして回り始めた脳が疑問を持ち始めた。
先程は痛さでそれどころではなかったからだ。
私はそれを解決する為に口を開く。

「普通、足がもつれたら前のめりません?
明らかに位置的に私の横を通り過ぎようとしてましたよね?
エルボー普通入ります?」

「君は馬鹿なのか?
キラークイーンを出して後ろに倒れたに決まっているだろう。
前に倒れては危ないじゃあないか。」

平然と、当たり前のように鼻で笑いながら私に説明してくれた吉良さんに殺意が芽生える。
こいつ、絶対狙ってやりやがった。

「そのまま!倒れるのを!阻止しろよ!」

「正直に言おう。
君があまりに気持ち良さげだったのが癪に障ったんだ。」

「呪われて死ねや!!」

私の今の顔を高校にいる人達に見られでもすれば、恐らく一生ネタにされるだろう顔芸であるに違いない。
メンチを切り、こめかみには血管が浮き出て、顔は真っ赤になっているだろう。
私がこんな顔をするのは一世一代これきりかもしれない。
否、吉良さんの家にいる限りは、の間違いかもしれないが、兎にも角にも吉良さんとは気が合うようで合っていない。
取り敢えず私のこの怒りをどうしてくれようか。
右手が拳を作っているが、吉良さんは尚も涼しい表情だ。
隠れ天然か?天然石か?と自分でも訳の分からない事を思っていれば、黙っていた吉良さんが口を開く。
なんだ?と耳をすませた。

「まあ、今回は私が悪かった事は認めよう。」

「今回は、っていつもだよね?
私なにもしてないのに吉良さんから仕掛けてくるよね?」

「謝るよ。
すまなかったね。」

素直に謝罪をしてくれた吉良さんに、やはり日本人の性なのか謝られたら許そうと言う気になる。
私が「いえ、そんな・・・。」と謙遜する言葉を並べて、今回だけはいいかな、と思う。
頬を掻きながら、吉良さんの目を見つめる。

「吉良さんが、謝ってくれたんで私としてはもう「悪気はあったがね。」てめえ今度と言う今度は許さねえ!!」

吉良さんに掴みかかる。
青筋がぶちりと鳴る音が響く和室。
お父さん、お母さん。
私は今は元気で平和にやっています。
だからキラークイーンを出した吉良さんに殴り掛かれる勇気をお与えください。






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